共産主義的人間

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。大野左紀子『アーチスト症候群』明治書院2008年3刷帯付、ミヒャエル・エンデ『エンデ全集13 自由の牢獄』岩波書店1996年初版、計210円。

 未明の激しい風雨は朝には止み、湿気の多い曇り空。これぞ梅雨。

 林達夫共産主義的人間』中公文庫1986年7刷を読んだ。感銘を覚えた。あまりに深い洞察にこちらの視力が追つかない。発表が1946年〜1951年。60年以上も前なのに、古くさくない。新鮮。

《 君は不服そうな顔をしているが、それは君の時代を見る目が、下らぬ新聞や雑誌の見出し(ヘッドライン)にしかくっついていない証拠だ。あとになって時代の顕著な動きと見られるものはその時代には明確には掴めず、つまり見出しにはなりにくいという鉄則に早く気づく必要があるね。 》「ちぬらざる革命」

《 このごろの編輯者は、概して見出し感覚(ヘッドライン・センス)ばかりが異常発達していて、時代の深層に横たわっているのもやもやした捕捉し難い問題の発掘などにはあまり心が向かなそうです。時代の潮流というものは、実は幾層にもなっていて、そのいちばんの底流はほとんど動いているのだかいないのだかわからぬような進行の緩慢ぶりで、流れの急な表面とは打って変わった相貌を呈しています。 》「無人境のコスモポリタン

《 政治の化けの皮がはげかかってから、それを追求し、それに悲憤慷慨することはたやすい。定めし、幕末獅志士の現代廉価版が、これからこの国土に輩出することだろう。というのは、わが日本は、いまや二度目に「尊王攘夷」ないしは「尊王か攘夷か」の時代に足を踏み入れて来たようだから。 》「新しき幕開き」

 庄司薫が「解説」で書いている。

《 すなわち、およそ知的戦いにおいて、相手について相手以上によく知ってしまうこと、よく理解してしまうことほど完全な勝利はないのではあるまいか。 》

 そのとおりだ。凄い本だ。以前著作集をかじったけれど、歯が立たなかった。この歳になってやっとわかってきた。

《 軍人が勝算もなしに戦争に突入したのは自分らに都合のいい見通しをたてたから。たとえば山田が「女囮捜査官」を出すとき担当が「官能を売りにしましょう、推理、官能両方のファンが買うから売り上げが倍になる」と見通しをたてるようなものだ。どちらも買わないかもしれないという可能性に思い至らない。  》

 山田正紀が自作について上記のようにツイートしているので、読んでみよう。

 ネットの見聞。

《 いま米国でハリーポッターをしのぐスピードで売れている本はFifty Shades of Grey というSMボンデージ系のエロチカ小説で読者はほぼ女性。元はオンデマンド出版電子書籍だったが火がついていまや地下鉄で女性たちが読んでいるとのこと。 》

 日本の官能小説と読み較べてみたく……はないな。

《 ニューヨーク・クリスティーズでの村上隆らの東日本大震災支援オークションの売り上げ6億8千万円。

 欲しい作品は……ない。