一九三四年冬─乱歩

 北斎道子展、きょうも途切れない来館者。滞在時間が長い。様子を見て昼食。

 久世光彦(くぜ・てるひこ)『一九三四年冬─乱歩』新潮文庫1997年初版を読んだ。忙中閑あり、旬日かかって読了。旨いブランデーをチョビチョビ味わうように、六章をゆっくり耽読。一気呵成に読めなかった、それがこの小説では逆によかった。さまざまな仕掛けがさりげなく施されていて、思わずニヤリとさせられる描写がいくつあったか。巧い。脱帽。

《 少しやつれた人妻、夫に叱られて俯いた人妻──乱歩は大好きだ。別にやつれていなくたって、伏し目がちでなくたって、人妻というだけでエロティックである。だから乱歩の小説には、どこか危うい感じがあって、不用意に隙を見せてしまうような人妻がよく出てくる。 》「第二章 ミセス・リー」

《 題名は短編の命である。 》「第二章 ミセス・リー」

《 怖くてならないくせに、乱歩の作品には蝋燭がよくよく出てくる。だいたい、土蔵と寺と蝋燭を登場させてはいけないということになったら、大概の探偵小説や怪奇小説は成り立たなくなる。 》「第三章 偏奇館主人」

 抜書きすると、その魅力がしぼんだ風船のように失せてしまう。文章が緻密に構築されているからだろう。小説の愉快な醍醐味を堪能。それにしても、作中作の中篇『梔子姫』は素晴らしい。これだけを製本して読みたい。

 NHKの鈴木奈穂子アナウンサーが結婚という記事。橋本奈穂子でなくてほっ。

 ネットの見聞。

《 今読んでいる『鉄道が変えた社寺参詣』は驚きの連続。「初詣」という習俗は明治以降の鉄道路線の整備とともに、鉄道会社が顧客開拓のために大宣伝した大「イベント」であったとは驚いた。その証拠に、古歳時記には「初詣」の語がない――にはナルホド。 》 早川タダノリ