ヨオロツパの世紀末

 吉田健一『ヨオロツパの世紀末』新潮社1970年について語るのは難しい。この数日逡巡していた。画期的な著作であるのは間違いない。

《 この場合、我々は近代とか前近代とかいふ凡て自分が現に生きてゐる時代を最上のものと決める田舎ものの偏見に制約される必要はない。 》21頁

《 ヨオロツパの十八世紀といふものが優雅であるのはこの時代に至ってヨオロツパ人が自分をヨオロツパ人と見做し、ヨオロツパを自分の生活の場所と考へるのに馴れてこの意識に即して文明の域に達したからで、これがヨオロツパが確実にヨオロツパになつたことである。 》 25頁

《 よく考へるならば、外国へ行くのに旅券が必要であるなどといふのも一種の屈辱であって、それはヨオロツパの発明かも知れないが、近代になるまでヨオロツパでもそのやうなものは用ゐられてゐなかつた。 》 29頁

《 少くともヨオロツパでは十八世紀のやうに言論が自由だつた時代はなかつた。 》 36頁

 恐るべき卓見が目白押し。そして十九世紀末。

《 併し世紀末とともに展開したヨオロツパの近代が直ぐに世界一般に、或はヨオロツパでさへも近代として認められた訳ではないことは言ふまでもない。 》 238頁

《 ヨオロツパは十八世紀に至って文明の域に達した。この時にその型が決り、その個性が確立したのであるが、文明とは別個に人間にはその運命がある。 》 243頁

 引用はこれくらいにしよう。内容が豊富過ぎる。なによりも吉田健一の文体が一筋縄でゆかない。平明簡潔とはいい難い。が、よく読みこむと納得せざるを得ない。なんと独特な。

 ネットの拾いもの。
《 英国の学生から「日本のヘヴィメタルを代表するミュージシャンのことを調べているが、この生年月日は誤植ではないか?」と問い合わせ。全文読むまでもなく誰のことかピンときて「BC98038年生、現在100050歳で間違いない」と返信。「閣下は特別だ」と書き添えた。 》