ゴーレム

 グスタフ・マイリンク『ゴーレム』河出書房新社1978年新装初版を読んだ。第一次大戦中の1915年に発表。プラハの陰鬱なゲットー(ユダヤ人居住区)が舞台。主人公は精神を病んだことのある四十路の宝石細工師。

 古い記憶を失い、幻覚と現実、おののきと熱情が交錯し、魂は彷徨し、果ては強盗殺人の嫌疑で投獄され(後に釈放)、さまざまな試練を経て、彼は魂の浄化へ向かう、といえばよかろうか。登場人物にエドガー・アラン・ポードストエフスキーの小説を連想。ゴーレムは表象的な意味に使われている。

《 タイプはちがって見えても、つねにおなじ頭蓋をした頭が墓穴から起きあがり、その幾世紀にもわたる顔が──きれいに髪を分けた顔、短く刈ったちぢれ毛の顔、総かつらをつけた顔、輪で髪を束ねた顔が──連綿とつづいてやってくる。しまいにだんだんぼくの知っている顔だちになってきて、最後のひとつに収斂する。──ゴーレムの顔だ。 》 192頁

《 そしてその言葉は、かつてぼくが具体的な現実だと思った体験も、実はまったく内的に見たものにすぎないのだという思いを強固にしてくれた。 》 348頁

 好評だったという。当時のプラハを知りたくなった。気づかなかったけれど、毒気に当てられたようだ。毒消しにポルトガルの大衆音楽ファド Fado のオムニバスCD『 THE ROUGH GUIDE TO FADO 』2004年をかける。音楽の特徴、サウダージは哀愁とも郷愁とも訳されるが、今回は離愁がふさわしい気がする。

 自転車でブックオフ三島徳倉店へ。太田忠司『眠る竪琴──レンテンローズ』幻冬舎2011年初版、村上哲見『唐詩講談社学術文庫2007年9刷、計210円。

 寒いので午後は家にこもる。