岡本綺堂

 雨。春雨ではない。しっかり降っている。

 『ちくま日本文学全集 岡本綺堂筑摩書房1993年初版には「半七捕物帳」から五編が収録。未読の二編を読んだ。これで「半七捕物帳」六十八編のうち三十一編を読んだ。杉浦日向子(ひなこ)は解説で書いている。

《 なんのためでもいい。とりあえず生まれて来たのだから、いまの生があり、そのうちの死がある。それだけのことだ。綺堂の江戸を読むと、いつもそう思う。 》

《 うつくしく、やさしく、おろかなり。そんな時代がかつてあり、人々がいた。 》

《 うつくしく、やさしいだけを見ているのじゃ駄目だ。おろかなりのいとしさを、綺堂本に教わってから、出直して来いと言いたい。 》

 二十一世紀の今日でも、全く色褪せていない。時代がここまで変化したからこそ、その深い魅力が、夜闇の底からさりげなく放射されてくる。時代は江戸末期であっても、内容はコンピュータの収集からすっと漏れてしまう、漆黒のなかの情報がそこかしこに感じられる。それを見つけるは、ひとえに読者の眼力にかかっている。そんな気がする。私でさえなんか、「半七の世界」みたいなものを書きたくなる。

 ネットのうなずき。

《 国民栄誉賞手塚治虫ももらってないよ。 》

《 最近の新聞の政治報道が政局や政治家の人間ドラマばかりになっていて、もっと政治家の業績とかこの法案が通ったら何年先には生活がこうなるといった情報がほしい。 》

 TPPに関して、賛成派反対派双方が持論を戦わす、という論戦論争を仄聞にして聞かない。マスメディアの怠慢。あるいは避けている? と思ったら、毎日新聞夕刊「夕刊ワイド」がTPPによる国民皆保険の危機を紹介していた。見出しの大文字。

《 風前の国民皆保険  TPPが「当たり前」を崩す最悪のシナリオ  》

《 「薬価」を発火点に  「医療外」で議論され  混合診療広がれば…  》

 本文から。

《 日本の薬価は、国民皆保険のもと多くの人が利用しやすいように、低く抑えられている。それがアメリカの製薬会社は気に入らないらしい。知的財産権の保護を理由に、医薬品や医療機器の流通の規制緩和を求めてくる可能性が高い。 》

《 色平(哲郎)さんは「薬価制度が知的財産権などの項目で議論されてしまえば、結果的に国民皆保険に影響を与える危険性をはらんでいます。TPPは普通の人の老後を直撃する問題であり、取り組みは慎重であるべきです」と話す。 》

 ネットの見聞。

《 VOCA展。受賞作家が表彰されるのは当然として、実質その推薦者(所属)にも光が当たるようになっている。推薦者が選考者の「趣味」や「傾向」を念頭に作家を推すようになっても不思議はない。これを20年も続けているうち、似たりよったりの作家ばかり並ぶ「現代絵画ムラ」に。もはや「団体」展。 》 椹木野衣