競売ナンバー49の叫び

 トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』サンリオ文庫1985年は1966年の発表。題名の由来。

《 トライステロの「偽造切手」は競売ナンバー49として売りに出されるという。 》 227頁

 裏表紙の紹介文から。

《 ある夏の日の午後、エディパ・マース夫人は、ホーム・パーティから帰ってみると、自分がカリフォルニア州不動産業業界の大立物(ママ)ピアス・インヴェラリティの遺言執行人に指名されていることを知る。 》

《 その全体が一つの暗号であり、読者自身がエディパ同様暗号解読者たらざるを得ない、隠喩と多義性に満ちている。 》

 暗号は、私の最も苦手とするところ。読み進めるのにひどく難儀した。巻末の解注《 グリム童話ラプンツェル姫(二○頁) 》では、サンリオ文庫版の表紙絵に使われたレメディオス・バロの絵とエディパとの関連が、十頁ほどにわたって詳述され、小説の一つの読みができるけれど。ま、それは他の人に任せて。気に入った文を少し。

《 いずれにしても、断片、小片、ひとしなみに、絶望という名のサラダさながら、煙草の灰やら凝縮した排気ガス、埃、人体の排出物やら、灰色のドレッシングがまぶされてある。 》 11-12頁

《 弾丸(たま)は飛んでいる最中に凍りついて停止していても、弾丸の中に速度が住みこんでいる。 》 165頁

《 「主人はいまテラスでセメントの代わりにビールを流しこんでいるの」 》 192頁

 読書中も読後もイーグルスの名曲「ホテル・カリフォルニア」が聞こえていた。そしてこのくだりに共感。

《 彼らが作った輪の中には想像の焚火があって、必要とするのは自分たちだけの、他人の入りこむ余地のない集団意識のみであった。 》 150頁

 先だって、沼津市庄司美術館で開催中の内田公雄展の案内葉書を、内田氏の親戚の男性に手渡したとき、彼が本業以外に中古自動車のレストアを仲間とやっている、と聞いた一緒にいた知人が、それを多くの人に広めよう! と前のめりに提案したところ、彼は仲間内で楽しんでいるからそれだけで十分、とやんわりかわした。そうだよなあ、と思った。

 訳者志村正雄の「あとがき」冒頭。

《 いつのことでしたか正確な記憶はありませんが、寺山修司氏が『競売ナンバー49の叫び』を訳してサンリオから出す予定であるという噂を聞いて、寺山版ピンチョンを楽しみに待っていました。 》

 あの寺山修司が……。新刊で購入した当時も今も、驚きが心に広がる。

 ネットのうなずき。

《 つまり、占領軍の方が安倍ちゃんや自民党よりも日本国民の幸せと将来を真剣に考えてたってことだよね。いったいどういう党だよ、自民党。恥を知りなさいっての。 》 想田和弘

 ネットの拾いもの。

《 『思案暮れーる』懐かしい店だ。 》

 京都に「しあんくれーる」というマニアにはよく知られたジャズ喫茶があった。一度行ってマッチを貰った。手元にある。

《 祝儀」の反対の「不祝儀」は「ふしゅうぎ」と読むものと思い込んで生きてきた…… 》 道尾秀介

《 つい先日、うちの主人が「御祝儀」を「おしゅうぎ」と読んでいた…… 》