死のフェニーチェ劇場

 この前読んだアレッホ・カルペンティエールバロック協奏曲』にヴェネツィアの「フェニーチェ座」が出てきた。ドナ・M・レオン『死のフェニーチェ劇場文藝春秋1991年初版を読んだ。サントリーミステリー大賞受賞作。選評での田中小実昌の言葉が効いた。

《 ドナ・M・レオン著「死のフェニーチェ劇場」にはユーモアがある。ユーモアは根本的なことで、ユーモアで味つけするのではない。ほかの三つの作品にはユーモアはなかった。 》

 三つの作品には横山秀夫「ルパンの消息」が。選考委員イーデス・ハンソンは書いている。

《 それでいて、登場人物にはユーモアも可愛げもなく、全体の暗い辛いトーンが重苦しかった。 》

 「ルパンの消息」は2005年にカッパノベルスで日の目をみた。「改稿後記」から。

《 だから上梓に向けて臨んだ今回の改稿作業は、嬉しくもあり、懐かしくもあり、そしてほろ苦くもあった。 》

 さて、世界的指揮者が、フェニーチェ劇場での演奏の合間に楽屋で死んでいた。死因は毒薬。犯人は? 真相は? 田辺聖子の選評から。

《 「死のフェニーチェ劇場」の面白さは細部のこだわりにある。トリックや構成よりも、人間と人間関係の面白さだ。日常のリアリティが確立しているので、事件究明のスピードがまことに読者の脈拍によく合致しており、すこしの無理もない。ゆっくりゆっくりと被害者の私生活があぶり出され、それは必然的に犯人の所在をさし示す。 》

 まことに当を得た評だ。傍らに大竹昭子須賀敦子ヴェネツィア河出書房新社2001年初版を置いて読んだ。地図にはフェニーチェ劇場はもとより、刑事が捜査で訪ねるシュデッカ島もあって便利。写真に魅せられ行きたくなってしまう。大竹昭子の文を読むと躊躇する。

 ブックオフ三島徳倉店で二冊。『ちくま哲学の森3 悪の哲学』筑摩書房1990年初版、杉浦日向子東のエデンちくま文庫2003年7刷、計210円。自転車でその先へ。米山記念館に遭遇。ちょうどいいので入館。立派な建物だ。

 ネットの見聞。

《  結局児童文学は漫画に負ける。そしていまだに小川未明浜田広介坪田譲治にしがみついている、死んだ分野になりさがった。そして、この三人が内務省の「児童読物改善ニ関スル指示要綱」の尻馬に乗って、大衆文学系ジュヴナイルの弾圧に協力した事実。 》 芦辺拓