戦後美術ベストテン!

 『芸術新潮』1993年2月号は「特集 アンケート 戦後美術ベストテン! 1945〜1993」。

《 30氏が厳選した、これぞ戦後美術の傑作だ! 》

《 「第二次世界大戦終結から現在にいたる日本の戦後の前衛美術の流れの中で、作品発表当時の評価や人気とは関わりなく、いま振り返ってとりわけ重要だったと思われる作品を、10点程度お挙げくだい」という小誌の問に、美術評論家など30氏から回答が寄せられた。 》

 1位 12票 河原温 《浴室》シリーズ
 2位  8票 三木富雄 《耳》
 3位  7票 河原温 《日付絵画》シリーズ
      7票 関根伸夫 《位相─大地》

 際立つ河原温(かわら・おん)の強さ。『《浴室》シリーズ』は、1933年生まれの彼が1953年54年に発表した28点の絵(鉛筆・紙)を言う。20歳そこそこの新人の絵の大きさは一点が30センチ×40センチ足らず。選出理由から。

《 個人と社会の問題を鋭く告発した作品もあります。(略)現代社会における人間の問題を告発、審美的表現の枠を壊した河原温の《浴室》シリーズが、それです。 》 横山勝彦(練馬区立美術館)

《 河原の作品は、戦後の光景を写実的に描いたどんな作品よりも、戦後の不安や悲惨さを直接的に感じさせる。 》 岡田隆彦美術評論家

《 ことに後者による密室内の切断された人体のイメージは、戦後社会における実存的な人間疎外の状況を提示し、ヴィジョンの激越さにおいてベーコンやジャコメッティにも比すべきものがある。 》 塩田純一(世田谷美術館

 この作品のコピーをこの作品を知らない絵描きや美術ファンに見せたらどんな反応をするだろう。紙に描かれた絵を見て、残酷な劇画調漫画、下手な絵、と思うだけかもしれない。おそらく戦後美術ベストワンとは思わないだろう。美術の辺境からやってきた衝撃の鉛筆画。発表当時これを評価した人たちは、けだし慧眼の持ち主といえる。

 それにしても、3位に入った『《日付絵画》シリーズ』。美術館で彼の『手紙』シリーズと『日付絵画』を見て面喰らった。これ?? 解説を読んでも得心がいかなかった。最近になって、昨日の「虚空という補助線」の概念を援用することで、意味合いが少し見えてきた。凄いわ。ウィキペディアから引用。

《 河原の代表的なシリーズ「日付絵画」は正式の題名を"Today" Series という。単色に塗られたキャンバス上に、制作当日の日付のみが白抜きの数字とアルファベットで「描かれ」た作品である(以下の文中ではキャンバス上に日付を表すことを「書く」ではなく「描く」と表記する)。最初の作品は1966年1月4日に制作された。以来、21世紀に至るまでこのシリーズの制作は続いており、その間、作品の基本的な形式は全く変わっていない。 》

 某ブログから。

《 コンセプチュアル・アートだ。それまで誰もこんなばかばかしい事はしなかった。誰もしなかったことで、河原はアメリカで大きく評価された。 》