短歌に詠まれた画家

 ブックオフ長泉店で二冊。岩田慶治道元との対話』講談社学術文庫2000年初版、米原万里『マイマス50℃の世界』角川ソフィア文庫2012年初版、計210円。それから雨。やっと梅雨本番か。

 美術関連の記事が少ないとの仰せ。画家(美術家)を詠みこんだ短歌を列挙してみる。一人一首。

《   ジョットの壁畫の罅(ひび)をつたひゆく晝の鼠に小さき歯あらむ   葛原妙子  》

《   灰色の二羽の連雀星の冬に吊りてハンス・ホルバイン父子   横尾昭男  》

《   レオナルド・ダ・ヴィンチと性を等しうし然もはるけく蕗煮る匂ひ   塚本邦雄  》

《   ミケランジェロに暗く惹かれし少年期肉にひそまる修羅まだ知らず   春日井建  》

《   ブリューゲル全版画暗し 世のなかにわれはわれをめぐりて狂ほし   小中英之  》

《   ドラクロアの激情を愛し海を愛し美しかりし友にも逢わず   石川不二子  》

《   ターナーの火事の絵を見る 燃えきって世界を繋ぐ言葉は生(あ)れよ   西勝洋一  》

《   ドオミエの夜行車の図を思ひしより混みし乗客俄かに親し   島田修二  》

《   耳を切りしヴァン・ゴッホを思ひ孤独を思ひ戦争と個人をおもひて眠らず   宮柊二  》

《   ゴオガンはタヒチの島に遁れけり真実(まこと)たづねてつひに孤なりき   筏井嘉一  》

《   ロダンとも光太郎とも違ふ小品のごとき手叫びをあげてゐる指   福田栄一  》

《   右の手にロダンが賭けし位置よりは遠く見ている<接吻>の像   岸上大作  》

《   ルドンの闇ふるへつつふかむ雪の窓に亡命者のごとく眠りつ   管野美知子  》

《   いつしかにルドンの眼(まなこ)のぼりいて神宮の森にふくろうのなく   加藤克巳  》

《   生き方の問題としてみづからを責めゐたりルドンの暗き画の下   滝沢亘  》

《   晩年のセザンヌ翁がレアリザシオンを少し解せりといひしおもほゆ   吉野秀雄  》

《   秋の野のまぶしき時はルノアールの「少女」の金髪の流れを思う   佐藤通雅  》

《   わたくしと呼ぶ温泥になずみつつ肉眼もて対うムンクへ   三枝浩樹  》

《   モジリアニの裸婦らみな恐ろしき木目のごとき丸味をもてり   井辻朱美  》

《   シャガール展閑散として会場に馬の臭いの充満したり   岡部桂一郎  》

《   クレエ展のため黒衣もて装えり漸くわれらにも退路なき   岡井隆  》

《   その繪よりその詩歌より身に沁みつローランサンの老年の顔   築地正子  》

《   たちゆらぐ金の芒に思ふかな宗達の線光琳の線   安立スハル  》

《   光琳の鶴千羽とぶ海の絵のさざなみの果ての一点の紅(あけ)   太田水穂  》

《   高橋由一の絵より抜け出し乾鮭が街に吊るされ年の瀬迫る   福島久男  》

《   退色のあらはとなりてこたび見る山下清の花火は昏らし   松川洋子  》

《   ホイッスルチケットテレホンマンホールわが惜春や三嶋典東   福島泰樹  》

 ダリ、マチスユトリロ三岸好太郎などもあったが、一人一首の基準で割愛。手元の本をちょっと探索しただけでこんなに。

 追記。上記で吉野秀雄がレアリザシオンという言葉を使っている。それへの返歌のような。

《   レアリザシオンというフランス語 緑蔭をゆくときふいに想い起こして   三枝浩樹  》

 ネットの拾いもの。

《 本音って積ん読タワーが崩れる時の音のことですよね。》