放浪記

《 例の通り古本屋への日参だ。 「赤いスリッパ」 》

 自転車を漕ぐ。晴れて風もある。太陽光発電機、風力発電機の気分。ブックオフ沼津南店へ。深水黎一郎(ふかみ・れいいちろう」『人間の尊厳と八○○メートル』東京創元社2011年初版帯署名落款付、管啓次郎(すが・けいじろう)『コロンブスの犬』河出文文庫2011年初版、林芙美子『放浪記』ハルキ文庫2011年初版、計315円。『放浪記』は、今読んでいるみすず書房版では伏字になっている箇所を充填してあるという記述で。伏字を回復する。

《 ××さんの自動車にでもしかれてやらうか。 → 大臣 「裸になつて」 》

《 パンパンと××を真二ツにしてしまはうか。 → 地球 「目標を消す」 》

 次の章「百面相」冒頭は《 地球よパンパンとまつぷたつに割れてしまへ! 》

《 ×××やうな×を聞いた。××ましい胸の×××××の中に、しばし私は××××××××ゐた。 「赤いスリッパ」 》

《 なぐるような音を聞いた。なやましい胸のときめくその中に、しばし私は眼をつぶって甘えていた。 》

《 私は×××××××を感じた。機械油くさい菜つぱ服に×××ると、私はおかしくもない笑ひがこみ上げて来た。 「雷雨」 》

《 私はなやましいものを感じた。機械油くさい菜っぱ服にもたれると、私はおかしくもない笑いがこみ上げて来た。 》

 拍子抜け。伏字のほうがエロを妄想させるわ。

 林芙美子『放浪記』みすず書房2004年初版を読了。1930年に出た改造社版が底本。森まゆみが解説の冒頭でNHK朝の連続テレビ小説うず潮』(1964年)で林芙美子の名を知ったようだと書いているが、私も同じ。最終回(だったと思う)林芙美子を亡くした母親が海辺で放心していた場面が目に焼きついている。

《 いったい革命とは、どこを吹いてゐる風なんだ……中々うまい言葉を沢山知つてゐる。日本のインテリゲンチヤ、日本の社会主義者は、お伽噺を空想してゐるのか!

  あの生まれたての、玄米パンよりもホヤホヤな赤ン坊達に、絹のむつきと、木綿のむつきと一たいどれ丈の差をつけなければならないのだ! 》 53頁

《 ハイハイ私は、お芙美さんは、ルンペンプロレタリアで御座候だ。何もない。 》 58頁

《 今にも雪の降つて来さうな空模様なのに、ベンチの浮浪人(ヴァガボンド)達は、朗らかな鼾鼻(いびき)をあげて眠つてゐる。 》 60頁

《 あゝ生きる事がこんなにもむづかしいものなら、いつそ乞食にでもなつて、全国を流浪して歩いたら面白いだらう。子供らしい空想にひたつて、泣いたり笑つたり、おどけたり、ふと窓を見ると、これは又奇妙な私の百面相だ。 》 79頁

《 ガラス窓を、眺めてゐると、雨が電車のやうに過ぎて行つた。 》 131頁

《 あゝ私の頭にはプロレタリアもブルジョアもない。たつた一握の白い握り飯が食べたい。いつそ狂人になつて街頭に吠えようか! 》 139頁

《 テヘ! 一人の酔ひどれ女でござんす。 》 154頁

《 あゝ情熱の毛虫、私は一人の男の血をいたちのやうに吸いつくしてみたいやうな気がする。 》 166頁

 これは凄い。大正末から昭和初期、放浪記とはよくぞ名づけた。天衣無縫、八方破れの生き様。威勢よく啖呵を切るハチャメチャな女子(おなご)に出会ったが百年目。遭わなくてよかった。

 森まゆみの四十頁近い解説は、力の入れ具合が半端ではない。

《 だから、『放浪記』は改造社版で読みたい。というのは、現在見る文庫版『放浪記』は当初の姿とは大きく変わっているからだ。 》

《 原『放浪記』が一生に一度しか書けない進行形の「青春の書」ならば、いま流布している『放浪記』は「成功者の自伝」である。 》

 なぜかアルチュール・ランボーの『地獄の季節』に通じる気配を感じた。

 城戸朱理の24日のブログから。

《 かつて、瓜南直子さんの個展と言えば、300万円前後の大作から売れていったものだったが、リーマン・ショック以後、絵画をめぐる状況は一変した。

  2009年秋の横浜・高島屋の個展では、一点も売れず、 》

《 経済的に困窮していた瓜南直子さんは、国民健康保険料が未払いになっていて、保険証が失効し、病院に行くこともできなかった。 》

 300万円の絵を買う客が当たり前にいた女性画家。一寸先は闇……。

 ネットの見聞。

《 グローバリストが聴いたら青筋立てて怒りだすでしょうけれど、高校生たちはこれからまだ50年、60年生き延びてゆかなければなりません。生き延びるためには市民的成熟が不可欠ですが、グローバリストは収益をもたらす能力の高い低賃金労働者であること以外の資質を君たちに求めてはいません。 》 内田樹

《 すんごく不思議なのは、今年の夏だって酷暑が続くのに、節電なんて全然言われない。原発は日本で2基しか動いてないのに。去年まで「電力不足」と盛んに言われたのは、いったい何だったんだよ。しかも節電の必要もないのに再稼働だけは急務だという。支離滅裂。 》 想田和弘

 ナットの拾いもの。

《 ほっと安藤の胸をなでおろす。誰だよ安藤。安堵だ安堵。 》