幻妖の水脈

 夏が戻った昼間。

 昨日の『黄色い髪』朝日新聞社1987年初版は、干刈あがたの長編小説。少し読んだけれど、中学生の娘と母親の物語、今の気分に合わないので本棚に返した。

『日本幻想文学大全 幻妖の水脈』(東雅夫編/ちくま文庫)の収録作品。

【序】澁澤龍彦(青銅社版『日本幻想文学大全 幻想のラビリンス』より再録)

紫式部源氏物語』より「夕顔」円地文子
『今昔物語』より「水の精が人の顔を撫でる話」「鬼のため妻を吸い殺される話」「馬に化身させられた僧の話」「大きな死人が浜にあがる話」福永武彦
上田秋成雨月物語』より「白峯」石川淳
小泉八雲『怪談』より「耳無芳一のはなし」平井呈一
夏目漱石夢十夜
幸田露伴「観画談」
泉鏡花高野聖
柳田國男遠野物語』より「二二」「三三」「五五」「七七」「九九」
折口信夫死者の書
内田百輭「冥途」
佐藤春夫「女誡扇綺譚」
江戸川乱歩押絵と旅する男
葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」
稲垣足穂一千一秒物語』より「月から出た人」「A MEMORY」「黒猫のしっぽを切った話」「ポケットの中の月」「月光密造者」「A TWILIGHT EPISODE」「コーモリの家」「A MOONSHINE」
久生十蘭「予言」
坂口安吾桜の森の満開の下
日影丈吉「月夜蟹」
三島由紀夫「仲間」
澁澤龍彦『唐草物語』より「火山に死す」
都筑道夫「風見鶏」
小松左京「牛の首」

 未読作品を読む。日影丈吉「月夜蟹」は『幻想博物誌』学藝書林1974年初版で。語り手が戦前、神経衰弱になり、F市(船橋市か)の親戚の古民家に居候をしてたときの回想。そばの入り江の砂丘で若い美人に遭遇。彼女への恋情に悶々とするうちに、突然破局が訪れる。

 都筑道夫「風見鶏」は『十七人目の死神』角川文庫1982年7刷で。夜毎監禁から助けを求める電話をかけてくる女。セールスマンは、監禁場所をついに見つけるが、……。ここで話は終り。元はショート・ショート「夜の声」。これを短篇に書き直して「風見鶏」になった。

《 よくなっていると思う。しかし七枚半の原型とくらべると、いまの私には判定がつかない。 》

 『夢幻地獄四十八景』講談社文庫1980年初版に収録されている「夜の声」を読んでみた。「風見鶏」のほうが味わい深いと思う。

《 ノヴェルを一本の大木にたとえれば、そこからひと枝、切りとったものがショート・ストーリイで、その枝の切り口を見せたものがショート・ショートだ、と私は考えている。 》

 「風見鶏」に卵塔場が出てくる。泉鏡花の小説に「卵塔場の天女」があって気になっていたが、きょう辞書をひいた。墓場のことだった。いくつになっても知らなくて恥ずかしい言葉がある。

 ネットのうなずき。

《 怪奇小説幻想小説は、どこで誰が傑作を書いているか予想のつかないジャンルなのです。意表を衝いたところから傑作が転がり出てくるというイメージがあって、それはすなわちこのジャンルの、底知れない懐の広さと深さを表しています。 》 K島氏

《 何せ、悪筆となれば他人事でない。オイラの字ときたら、
  金釘どころか、鉋屑(かんなくず)だ。 》

 ワープロ、パソコンは、ホントいい。

 ネットの見聞。

《 脳科学で「自由意志は環境に縛られる」という実験がある。例えば「◯くら」という文字列を見せて「何を連想しますか?」と聞くと、多くの人が朝方なら「まくら」、春の公園なら「さくら」、魚屋の前なら「いくら」と答える。つまり考え方や気分を変えるには、環境を変えることが有効だということだ。 》

 外出するか。暑い。