『BALLROOM』

 吾妻ひでおの新刊『失踪日記2 アル中病棟』イースト・プレスにこんなセリフがあるという。吾妻たちに看護師は言う。

《 「これから酒を断って生きていかなければならない皆さんにとって重要なことは、今まで心身ともに酒だけの人間だった自分から酒を抜いた時、酒の無い生活での心の空洞を何で埋めるのかを考えることです」 》

 フラン・オブライエンの小説にはアル中寸前と思しき人物が幾人も登場。パブの場面も多数。心の空洞を埋めるために酒を呑みに集まる人たち。そこには音楽。

 アイルランドの音楽をまともに聴いたのは、LPレコードのディ・ダナン DE DANNAN 『ボールルーム BALLROOM』1987年だった。ここでリード・ヴォーカルをとっている歌姫ドロレス・ケーン Dolores Keane(1953年生〜)のハスキーな声調に惚れた。ジャケットは、錆びた自転車(自転車だ)のハンドルに手をかけた長い赤毛の女性が廃墟となったボールルーム(舞踏場)を眺めている写真。アイボリー・ホワイトの背景が、いかにもアイルランドを思わせる。ワルツのリズムで歌われる『芳しき忘れな草 The sweet forget-me-not 』はやはり絶品。二十年くらい前だったか、原宿での初来日公演にも行った。このアルバムに感心して、アイルランド音楽を聴くようになった。LPレコード、CDを何枚も買ったけど、聴き込むほどに見えてくる、アイルランド人特有の曇天の屈折がちょっと身に合わず、先年知人に数十枚のCDを譲った。手元には数枚のLPレコードとドロレス・ケーンのLPレコード、数枚のCDとメアリー・ブラック Mary Black のLPレコードとCDを残した。

 大事なCDを忘れていた。『 BRINGING IT ALL BACK HOME 』(BBC TV Series)1991年だ。英国BBC放送のアイルランド音楽を追跡した番組からの37曲。ドロレス・ケーンとメアリー・ブラックが共演している。英文解説の末尾に歌手ヴァン・モリソン VAN MORRISON が書いている。

 " I have a theory that soul music originally came from Scotland and Ireland "

 (ソウル・ミュージックは元々、スコットランドアイルランドから来た、という説を私は持っている。)

 このビデオテープもあるけど、再生デッキがない。宝の持ち腐れだ。ここでヌーラ・オコーナー『アイリッシュ・ソウルを求めて』大栄出版1993年初版から引用すれば面白いけど。帯文から。

《 BBC制作による好評企画の邦訳書版! 》

《 初の「アイルランド音楽」研究書 》

 世界中の面白そうな大衆音楽を渉猟してきたが、北欧とビルマバングラデシュスリランカ〜インド〜パキスタンは苦手だ。好きなのはインドネシア〜マレーシア、アフリカ全域、カーボヴェルデ〜ポルトガル〜スペイン、ギリシャ〜トルコ。そしてカリブ海〜ブラジル。最後にアメリカ合衆国のジャズ。ヨーロッパの大部分が抜けているなあ。旧ユーゴとかは面白いけど。

 ネットの拾いもの。

《  ♪ いいえ わたしは モナリザの女 ♪  》

《 某同人誌の島田先生のインタビューによると、南波杏さんは小説を書いてるらしいです。「島田荘司推理小説賞」の選考を手伝っている方が南波さんに本格ミステリーの書き方を指導しているそうなので、完成すれば楽しみです。 》

 本格官能ミステリかな。