味戸ケイコ展「青の無言劇」

 昨晩は、買ってきた105円本から洲之内徹『さらば気まぐれ美術館』新潮社1988年4刷のカバー(ジャケット)を取って、堅牢な表紙をなでなで。読まれた形跡のない小口をパラパラと開いたり。いかにも本らしい本だ。感触を楽しんで読むつもりはなかったけど、巻末近くの「誤植の効用」にクルド人亡命者のモハメド・M・アリの名を見つけて読んでしまった。

《 部屋中の襖はすべてか彼の画布に代り、敷居に嵌っているものも外してあるものも、ことごとく油絵具やアクリルで絵が描いてあって、その中には戦争をテーマにしたものがある。 》 301頁

 この描写には覚えがある。文芸雑誌『南北』の編集長だった故常住郷太郎氏から勧められて、銀座の大阪フォルム画廊だったか、個展へ行ったが、常住氏が見せた写真がそうだった。部屋のあらゆるところが黒く太い線で絵が描かれていた。

《 線が闊達で、洒脱で、見事な手際で単純化された画面の、黒と白のバランスが美しい。 》 299頁

 二度目の個展の時も画廊へ行った。作風の変化を感じた。私の美意識からさらに離れた絵だった。スウェーデンの国籍を取得できたと聞いた。

 味戸ケイコさんのお住まいのある青梅市二俣尾駅から多摩川を渡って徒歩10分のところにあるパピエ・コレという画廊での味戸ケイコ新作展「青の無言劇」初日へ行ってきた。

 朝八時過ぎに自宅を出て、三島駅新宿駅東名高速バスに初めて乗車。左に冨士を仰いで気分いい静岡県を抜け、神奈川県に入ると事故渋滞。なんとか抜けて多摩川に近くなって自然渋滞。三十分遅れてもいいように行程を組んであったけど、これではいつ着くか。用賀インターで下車、迷いながら用賀駅へたどり着き、電車に乗り換えて渋谷駅へ。新しくなって乗換えに時間がかかると聞いていたけど、山手線までずいぶん歩く。新宿駅で青梅特快に乗車、青梅駅で乗り換え、二俣尾で下車。予定より一時間の遅れの二時に画廊到着。味戸さんや顔見知りのファンにご挨拶。画廊に一時間ほど滞在、帰りは新幹線、午後六時過ぎ帰宅。ふう。

 電車の乗客を観察していて、文庫本を読みそこなった。二冊も持っていったのに。それにしても面白かった。東京駅丸の内側ではあふれるほどの観光客が駅を背景に写真を撮っている。かつて見たことのない光景。東京はどこもお祭りじゃ。

 ネットの拾いもの。

《 解説に書こうと思っていたことが、著者あとがきに書かれていた…… 》