『百句燦燦』

 明日から始まる「風の子造形教室展」 Art 長光寺 Vol.1 の展示の準備で朝から出かける。午後五時半帰宅。四人で展示。住職の好意で、お寺の本堂をせいせいと使った、非常に面白い展示になった。これはいい。ニ日〜四日のたった三日間の展示。天気もよく幸先の良い63歳の誕生日だ。
 長光寺 http://chokoji-showashohirin.com/fuji.html

 小山正・編『奇想天外のミステリー』宝島社文庫2009年初版を読んだ。辻真先鯨統一郎霞流一戸梶圭太、かく たかひろの五短篇を収録。すらっと読んで気がついた、読んだことがある。

 すらすらと読めれば良いというものではない。塚本邦雄『百句燦燦』講談社文芸文庫2009年3刷を繙く。超絶技巧の文章表現。一言半句表現の深みを探り、じっくり味わうことなしには勿体無くて、すらすら読むことはできない。原石鼎の句に目が留まる。

《  秋風や模様のちがふ皿二つ  》

《 春風であつては印象がぼやける。皿が一枚では寂寥が勝つ。二枚揃つては配合の妙を失ふ。秋風の中に意匠を違へつつ並ぶ皿のアンバランスのバランス、絵心と句心がぴたりと呼吸を合せたうつくしい作品である。 》

 合わせるは照屋眞理子の短歌。

《  ヨカナーンの首もなければ古伊万里の皿はしづかに秋風を盛る  》

 もう蚊帳も不要だろう。能村登四郎の句。

《  青蚊帳に寝返りて血を傾かす  》

《 傾きつつ湛へる体内の血の沼の底は静脈の蒼い血、上澄みとなつてひそかに泡立つのは動脈の紅い血であらうか。 》

 合わせるは再び照屋眞理子の短歌。

《  螢なすこころごころをときはなち並(な)みて会はざる白蚊帳の中(うち)  》

 (白蚊帳の帳は、正しくは巾ヘンに厨)

 照屋眞理子の二首は、月刊『短歌』角川書店連載の「公募短歌館」で塚本邦雄が選者のときに(昭和53年12月号、6月号)特選になった作品。照屋女史とは手紙やメールの遣り取りはしているが、謦咳に接したことはない。柳瀬尚紀・編『猫百話』ちくま文庫1988年初版収録「あやしの猫──『更科日記』より」は、照屋女史の訳。

 ネットの見聞。

《 ラジオで僕も入試改革について否定的なコメントをしました。「人物本位」ということは「査定者の価値観をどれだけ内面化しているか」を競わせて「イエスマン」度に基づいて格付けするということに他なりません。とにかく「しっぽを振るのがうまいやつ」が出世する仕組みにしたいんでしょうね。 》 内田樹

《 教育制度改革のモデルはシンガポールです。具体的には、早期のコース分けによる教育の効率化と反体制的な子供には教育機会を与えないこと。政府から「反政府的な人物ではない」という証明を得ないと大学に入学できないシンガポールの教育制度が彼らの理想なのでしょう。 》 内田樹

《 岩波の白秋全集が全40巻で5千円という値段に少々驚く。でも、もちろん買わない。この全集、当店にも3巻ほど抜けたセットがあってこの間わずか2千円で叩き売ったばっかりなのだ。それにしても白秋全集、何でこんなに古書価が安いんだろう。 》 智林堂