『青春マンガ列伝』

 一段と冷え込んで師走。自転車も呑気に走ってはいられない。右、左、右、左。点滅しているパトカーが向うからゆっくりやって来る。はいはい、遵守してますよ。用事を手早く済ませてブックオフ長泉店へ。安岡章太郎『走れトマホーク』講談社1973年初版函帯付、『谷崎潤一郎=渡辺千萬子 往復書簡』中央公論新社2001年初版帯付、ニ割引セールで計158円。

 坪内祐三『文庫本福袋』文春文庫で夏目房之介『あの頃マンガは思春期だった』ちくま文庫が紹介されていた。夏目房之介の本がまとまっている棚を見たら、吾妻ひでおのマンガ本が二冊あるのに気づいた。『エイリアン永理』ぶんか社2000年初版、『クラッシュ奥さん2』ぶんか社2002年初版。ブックオフで買ったかすかな記憶。いや、それはさておき。この横置き二冊の下に『あの頃マンガは思春期だった』の元本『青春マンガ列伝』マガジンハウス1997年初版を見つけた(あることをすっかり忘れていた)。読んでみた。夏目は私と同い年。共通項はそれだけ。東京の真ん中と一地方の小都市(田舎)の違い。それは情報量の違いとして顕著に現れる。水木しげるの「神変 方丈記」「幸福の甘き香り」、つげ義春の「沼」「山椒魚」などは好みが一致。これらが掲載された噂の『ガロ』に近所の本屋で出合えたのは高校二年の時だった気がする。当時の『ガロ』五年分は今も所蔵している。

《 「危機一発」で裸のボンドガール(ダニエラ・ビアンキ)が、首に黒いリボンをつけて横たわる場面など、異様に私の性への憧れをかきたてた。黒リボンをつけた女性なんて、尾てい骨がふるえるほどよかった。 》 29頁

 やだね、好みがばっちり重なる。チョーカーという言葉はずっと後に知った。眼を上げると林由紀子さんの銅版画(チョーカーを着けた美女)。つげ義春の「沼」について。

《 本当に画期的なことをやると、そのときはまるで反応がないように見えることがある。 》 54頁

 あと、うなずいた箇所からいくつかを。

《 やれやれ人間とは難儀なものだ。 》 73頁

《 私の身体は、ジャズ喫茶にいるときだけ音が響きわたってゆく空洞のようだった。 》 98頁

《 '69年末、渋谷のオスカーというジャズ喫茶ではじめて山下洋輔トリオの演奏を聴いた。まるで殴りあいのようなジャズだった。 》 98頁

 ほぼ同時期、新宿紀伊国屋書店裏にあったピット・インで初めて聴いた気がする。それから追っかけ。

《 彼女がバイトしていた新宿のジャズ喫茶「木馬」にいき、帰りがけに彼女の下宿に転がり込んだ。 》 153頁

 新宿のジャズ喫茶「DIG」でバイトしていた東京の女性は、友人の下宿に転がり込んで同棲を始めた。数か月経った頃だろうか、DIGへ行って彼のことを軽く訊いた。返事は覚えていないが、その時には別れていたことを後で知った。彼は仙人みたいな風貌で、下北沢でジャズ喫茶をやっている。当時同棲している知人は何人もいた。私には縁が無かった。というか、女性の気持ちにまったく気つかなかった。ほんと、バカでウブだった。同棲は結局未経験。

《 金はなかった。それでもジャズ喫茶には通った。 》 166頁

《 一九七○年から七二年にかけてというのは、戦後史の(いや、日本近代史の)、一つの大きな転換期である。高度成長経済と政治的そして文化的ラディカリズムが終わり、その後の長い停滞や倦怠へお向って行く、その変わり目となる時期。 》 118頁

 坪内祐三『一九七二』文春文庫だ。その転換期をまるまる学生で過ごした。

 ネットのうなずき。

《 こっちもあまり長生きしそうにないので、そろそろ身辺整理でもしなくてはならないなと思っている。 》

 ネットの見聞。

《 そう、たしかに彼らの読みは間違っていたかもしれない。しかし、それは正しい読みよりももっと正しい「誤読」だったのだ!  》

 なんか励まされるなあ。

《 人はまず文化を受け継ぐだけで精一杯になります。まして新しい何かを創り出すことは至難です。 》

 だよねえ。

 ネットの拾いもの。

《 Q.じつは読み間違ったことのある漢字を教えてください

  1位 貼付 (×はりつけ   ○ちょうふ)
  2位 依存心 (×いぞんしん   ○いそんしん)
  3位 間髪をいれず (×かんぱつをいれず   ○かんはつをいれず)
  4位 漸く (×しばらく   ○ようやく)
  5位 早急 (×そうきゅう   ○さっきゅう)            》

《 娘「パパ、あの人と結婚したいの。あの人、公務員で、とても優秀で、出世しそうなの」
  父「そんな結婚許すわけにはいかない。出世して『秘密指定秘密』を知る立場になったらどうする。妻も秘密漏洩の共謀罪をかけられることになるんだぞ。怖いじゃないか。公務員と結婚するなら出世しない人にしなさい。 》 山田正紀