「人間掛軸」

 文庫本バベルの塔のてっぺんに長谷川三千子『バベルの謎』中公文庫2007年初版。その「文庫版あとがき」のくだり。

《 西尾幹ニ氏が近著のなかで「『現代かなづかい』は矛盾がありすぎ、『旧仮名』……は無理がありすぎ」る、という名言を吐いておられるが、 》

 矛盾と無理。ずっと疑問符のままだった旧仮名遣いの疑問がこれで腑に落ちた。手元には阿久根靖夫・間瀬肇『旧漢字・旧仮名便利帖』有精堂出版1992年初版がある。昔ささっと読んで、歴史的仮名遣いを習うのは即座に諦めた。

 昨日の輪堂寺輝『十ニ人の抹殺者』に併録されている探偵小説「人間掛軸」を読んだ。屋敷の敷地内で一日に五人が連続して、題名のように床の間で首を括られ、掛軸のように吊るされている。敷地には警察がいるのに、つぎつぎと殺される。天才的早技の殺人犯だ。そしてすっ飛んだトリック。探偵江良利久一(エラリー・クイーンのもじり)は言う。

《 「途方もない想像ですから大田政五郎さんに訊ねて見た上でないと、何とも言えませんよ。多分そうじゃなかと思ってはいるんですが、余りにも突飛な想像なので」 》
《 「聊(いささ)か探偵小説的想像ですが、あり得る事だとは思われませんか」 》
《 「上りを見たから、再び振り出しへ戻ろうじゃありませんか?怪奇園首吊り双六の振り出しである菊の家へ……」
   と言って江良利が哄笑(わら)った。 》

 あきれるトリックだが、連続殺人の過程には感心。「十ニ人の抹殺者」「人間掛軸」、どちらも矛盾と無理がありありだけれど、面白い。それでいいのだ。それにしてもすごい題だ、「人間掛軸」。夢野久作には「人間腸詰」があった。おバカな連想、「逢引き肉」。

 ブックオフ函南店へ知人の車に同乗していく。円地文子『食卓のない家(上・下)』新潮社1979年初版、川村二郎『日本廻国記 一宮巡歴』講談社文芸文庫2002年初版、計315円。前者はこの前文庫本で読んだけど、きれいな単行本なので。下巻は帯付。

 ネットの見聞。

《 国会前のデモ、参加したのは大飯原発再稼働反対以来だった。結局あの時も再稼働は止められず、今回も秘密保護法は可決されてしまったけど、久しぶりに訪ねたデモの成長ぶりに圧倒された。たとえわかりやすい勝ち負けに繋がらなくても、この国のデモ力は着実かつ独自に育っている。そのことを実感した。 》 椹木 野衣

《 団結というのとも違う。国会の周辺が各所で別々の力を貯め、たがいに連携しながら動いている。それでいて自由だ。帰りたければいつ外れてもいいし、スマホで誰かと与太話をするのも勝手だ。でも、そうして集まった喧騒や叫びや太鼓や笛の音は、バラバラなようでひとつの大きな音楽のようにも聴こえた。 》 椹木 野衣

《 悪事を働くテロリストもいれば、マンデラ氏のように信念の声を上げただけで時の政権に恐怖(テロ)を与え、テロリスト扱いされた正義の偉人も居る。だから、信念に基づいた平和なデモが時の為政者にテロ呼ばわりされても、寧ろ光栄な事。それだけ為政者の後ろめたさを露呈させたから。南アの事です。 》 YoJung Chen

《 現政権でこれから一番心配なのは、経済政策がうまくいかなくなった時に、「外」に敵を作り、国民の関心をそちらに集中させること。人的犠牲者が出たり、武力衝突となれば、愛国心が一気に高まって、メディアも人々も、政府批判はしにくくなる。そうならないように、ということを、常に意識しておきたい。 》 Shoko Egawa

《 成立してしまったからといって負けを認めるのではなく、第二(行政による運用)、第三(司法による最終的な判断)というステージで勝てる(=法律の適用範囲を制限される、または法律自体を無効とさせる)ように頑張りましょう。 》 法学たん

《 絶対的多数なんだから強行採決しなくても、法案は成立したはず。公約にもない立法を何故にかくも急いで――と考えると、いますぐ隠蔽せねばならないとてつもない「秘密」があるからではと邪推します。 》

 ネットの拾いもの。

《 古本屋同士の話。「LEDにしてどうすんだよ! 店の方が先にこと切れるっつーの」 》