『とらんぷ譚』

 昨日の『真珠母の匣』は『とらんぷ譚』四部作の第四部に当たる。『幻想博物館』『悪夢の骨牌』『人外境通信』そして『真珠母の匣』に短篇「影の狩人」「幻戯」他を加えて『とらんぷ譚』は、1979年12月20日平凡社から刊行された。この『とらんぷ譚』を中井英夫氏から恵まれた。氏の話すところによると、他に仏文学者の澁澤龍彦と英文学者の高橋康也平凡社から郵送して贈呈するのに、送り先を間違えないようにと固く言ったのに、間違えた。面識の無いお二人は直接会って交換した。この三冊には誤りがあって、本屋には出回らない本だと仰った。本には「中井英夫とらんぷ譚』正誤表」のコピーが添えられてある。本文三行の脱落と誤字など。これでは売れない。限定三部。勿体無くて、新たに加えられた短篇だけを読んで本棚に並べた。帯文から。

《 手作りのトランプに模してここにお送りする54編の連作短編小説は、私にとっては70年代の纏めの仕事であると同時に、幼いころからやみくもに書き綴り熱愛してきた”短編”という形式への、ささやかな供物である。 》

 『真珠母の匣』講談社文庫1988年初版、鶴見俊輔の解説から。

《 時代が新しいいがたに人をはめこもうとする時、その型どおりにならない異形の者もまた、あらわれる。 》
《 私の記憶をさかのぼると、昭和四年から十年まで、著者は私のとなりの教室にいた。(引用者:略)そのころから彼は野球よりも、とらんぷの好きな人だったのだろう。 》

 なお、『幻想博物館』講談社文庫1981年初版の解説は澁澤龍彦。『悪夢の骨牌』講談社文庫1981年初版は種村季弘。『人外境通信』講談社文庫は「自作解説」。種村季弘の解説から。

《 昭和二十三、四年は、どうやら中井氏がふたたび子供っぽくしていることのできた稀な時代だったかもしれない。 》

 その記述に誘われて『続・黒鳥館戦後日記』立風書房1984年初版を開く。1949年(昭和24年)「一月九日」の日記から。昭和十六年の思い出。

《 長兄が独逸へ向つて発つた日、甲板にひとり立つてゐた白晢のポーランド人(何故かあれはポーランド人といふかんじがするおそらくふらんす人にちがひなからうけれど)のことがいまもなつかしい。 》

 ここで綴られていることが、『真珠母の匣』の 「優しい嘘」で使われている。1948年(昭和23年)「九月ニ十一日」から。

《 たゞ作家として、だけではない、私が人間として生きてゆかれるのも、小説を書くほかに道はないことを、初めて知った。
  しつこく繰りかへす様だが、「メーゾン・ベルビウ地帯」にほれこんでしまつた私である。 》

 椿實の小説「メーゾン・ベルビウ地帯」だ。1948年(昭和23年)探偵小説界では、大坪砂男香山滋、島田一男、高木彬光山田風太郎を「戦後派五人男」と呼んでいた。この年には大坪砂男「天狗」、香山滋「怪異馬霊教」、島田一男「古墳殺人事件」、高木彬光「刺青殺人事件」、山田風太郎「眼中の悪魔」が発表された。どれも無比の作品だ。何とも華々しく豪華な時代だ。

 ネットの見聞。

《 河野太郎氏 秘密保護法「国民の99.9995%は無関係」→だからさ、そんなこと条文のどこにも書いてないっての! 》

《 石破幹事長の舌禍が止まらない。昨日も講演で特定秘密に踏み込んだ報道機関が捜査対象になると発言し、後に発言を撤回。こうやって特定秘密保護法は一人歩きを始め、治安維持法と同様に変貌を遂げていくだろう。 》

《 僕は日本という国を愛しているし、日本人であることに誇りを持っている。でも、時の権力者から「愛国心を持て」と強要されると、「国の権力を握っている我々に忠誠を誓え」と言われているように思えてならず、強い拒絶感を覚える。 》 弁護士川口創

《 そもそも為政者がすべきことは、愛国心を強要することじゃなくて、愛国心を抱いてもらえる国にすること。国民に愛国心がなくなっているとしたら、それは、愛するに値する国になっていないからじゃないの? 》 柴田よしき
《 そしてわたしは、国民に愛国心がなくなっている、とは思ってない。そう思わせようとしている、あるいは、自分たちに都合の悪い種類の、愛国心、を抹殺しようとたくらむ輩たちの、ミスリードだと思う。愛国心自体を狭い枠にはめ、自由な愛国心の表現をゆるさない為の。 》 柴田よしき

《 心臓病は動悸と圧迫感じゃない。高血圧は頭痛と脂汗じゃない。大腸癌は便秘と肉食過多じゃない。戦争の予兆は軍歌や行進や提灯行列じゃない。知らないうちに粛々なんだ。 》 藤岡真

《 高速増殖炉がシビアアクシデント(過酷事故)に見舞われたら、ほとんど未知の領域です。(村上誠一郎衆院議員 》

 ネットの拾いもの。

《 NHKのニュースで「群馬の遺跡からバグが発見された」って。1000年以上も発見されないバグとか、どんなトロイの木馬だよと思ったら、馬具だったでござる。 》

《 朝から異様に寒いと思っていたら、暖房が点いていなかった。 》