「メーゾン・ベルビウ地帯」

 椿實「メーゾン・ベルビウ地帯」(『椿實 全作品』立風書房1982年初版収録)を再読。初出は昭和22年、同人誌『新思潮』。メーゾン・ベルビウ MAISON BELLE VUE は上野の杜のそばにある安アパートの名前。敗戦後の浅草と上野を舞台にした男女の出逢いと別れ。

《 桜の木には桜の臭、椎の木には椎の匂いそして私も女も植物であつた。 》

 冒頭がこれ。空襲から敗戦後の猥雑な風俗に彩られたメーゾン・ベルビウ地帯。そして結び。

《 ともあれ夜の浅草は、ものみなが舌をたらしたやうな蠱惑で私にせまるのであつた。 》

 蓮っ葉で濃密な時代相が生々しく、けれども下品からは程遠い、何とも危うい均衡を魅せている短編だ。解説で中井英夫は絶賛。

《 ただしそれは私だけのことで、他の同人達にはこの作品はおおむね不評だった。椿實の系譜は明らかに泉鏡花川端康成に直結するものだが、鏡花も当時ほとんど顧りみられない作家だったし、川端の”浅草もの”同様、ただの風俗小説としか読まれなかったのであろう。ロシア少女ワリャもアガフィアも、文学に人生の真実のみを見つけようとする人たちには、ただの人形としか映らぬに違いない。 》

 泉鏡花川端康成の『浅草紅団』も評価されない時代があったとは。作品の評価は時代の変遷とともに大きく変動する……。『浅草紅団』なんか、私には名のみ高い幻の小説だった。今世紀になって講談社文芸文庫でやっと長年の渇を癒した。読んで仰天。とびっきりの生きの良さ。「文学に人生の真実のみを見つけようとする人たちには」不向きな小説ではある。

 中井英夫『続・黒鳥館戦後日記』立風書房1984年初版、1947年(昭和22年)「八月十日」から。

《 ところで皆のかへつたあと、椿が今かき上げた「メーゾン・ベルビウ地帯」をもつてきた。飯をくつてからよんでみると、これが素晴らしい。(引用者:略)道学者が何と云はうとこれは傑作だ。これを二日でかき上げる二十三才の彼に幸ひあれ。自分の才能がひどくみじめだ。完全に負けた。 》

 自転車屋で点検。いくつかのネジが緩んでいる。自分のオツムは? 緩みっぱなし〜。自転車は軽快〜どこかへ行きたい〜ブックオフ長泉店へ〜。東川篤哉放課後はミステリーとともに実業之日本社2011年5刷帯付、樋口有介『枯葉色のグッドバイ』文春文庫2007年4刷、計210円。それにしても「放課後」の第一変換が「放火後」とは、いくら寒いといってもなあ。

 毎日新聞朝刊、コラム「経済観測」冨山和彦から。

《 成長戦略というとグローバル企業やハイテクベンチャーが世界市場で競争力を高める議論に偏りがちだが、日本の経済活動の70%以上は、ドメスティック(国内的)な経済圏に属している地域密着のサービス業や中堅・中小企業によるもの。いわゆる大企業の正社員は減少し続け、今や就労者全体の約2割に過ぎない。 》

 ネットの見聞。

《 英ガーディアンの編集長は、盗聴問題の報道で政府から国益を害していると批判され、国会で「国を愛しているのか?」と質問された。
  「私たちは民主主義国家に生きています。この盗聴報道に従事する人たちの多くは英国民で、この国で暮らす家族がおり、この国を愛しています。私はあなたが「国を愛しているのか」と質問したことに驚いていますが、答えはYESです」
  「私たちは愛国者です。そして私たちが愛しているものとは、民主主義国家そのものであり、報道の自由そのものであり、この国ではこういった問題を議論し、報道できるという事実なのです」 》 吉田大輔

《 政府は13日午前、国の機密漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法を公布した。 》

《 安倍政権が増税しかしてない、というんだが、確かにあの大騒ぎした治安維持法以外には、増税の話ばかりだ。 》

 ネットの拾いもの。

《 今年の漢字は「嘘」。来年「滅」にならぬことをせつに願う。 》

《 「やっこさんは白だな」…という豆腐発売 命名は弁護士 》