「田舎の事件」

 『活字狂想曲』に続いて出た倉阪鬼一郎『田舎の事件』幻冬舎1999年初版を読んだ。題名どおり、ド田舎の人物を巡る短編十三話を収録。

《 『活字狂想曲』は会社を舞台としたノンフィクション、『田舎の事件』は田舎を舞台にしたフィクションとスタイルは正反対なのですが、実は似ているところがあります。 》 「あとがき」

 東京とド田舎。正反対のように見えながら、内実は合わせ鏡のような人間心理。読み応えは『活字狂想曲』。これは昨日書いたように歴史的文献になる可能性があるが、『田舎の事件』はどうだろう。有栖川有栖の帯の推薦文から。

《 私のお気に入りは倒叙ミステリの怪傑作「頭のなかの鐘」か。これはミステリ史に残る。「無上庵崩壊」も生涯忘れん。 》

 「無上庵崩壊」は究極の蕎麦屋を開いた男の顛末。水木しげるの漫画で読みたくなった。結びの一行。

《 「あのひと……かわいそう」 》

 ところどころに俳句が挿入されているのがご愛嬌。これがけっこう愉しい。「赤魔」から。

《  野遊びの子に暗きもの擦過する  永田耕衣  》

 穏やかな風なのでイトーヨーカドー三島店にある本屋で泡坂妻夫『正者と死者』新潮文庫2014年5刷帯付を受け取る。577円。その後南下、ブックオフ函南店まで自転車で行く。新保博久山前譲編『乱歩 上』講談社1994年2刷、谷川俊太郎『はるかな国からやってきた』童話屋2006年12刷帯付、『ポケット詩集 III 』童話屋2004年初版帯付、ディケンズアメリカ紀行(上・下)』岩波文庫2005年初版、計525円。文庫新刊一冊より中古本五冊のほうが安い……。

 ネットの見聞。

《 小林司東山あかね訳『シャーロック・ホームズ全集』が河出文庫入り。『緋色の習作』『シャーロック・ホームズの冒険』が3月予定。 》 藤原編集室

 本棚にある上記全集の『1 緋色の習作』河出書房1997年初版になぜ旧来どおりの『緋色の研究』ではないのか、と疑問だったが、「はじめに」に記されていた。

《 本巻収録の署名は、これまで「緋色の研究」と訳されてきたが、土屋朋之さんの指摘どおり、これは誤訳であると思われるので、「緋色の習作」に改めた。「緋色で描いた習作の絵というほどの意味である。 》

 『2 四つのサイン』も、旧来は『四つの署名』が多かった。

《 (引用者:略)「署名」という意味に、「記号」という意味をダブらせてある。それを受けて、私どもは『四つのサイン』と訳すことにしたのである。 》 「訳者あとがき」

《 例へば月を描くのにブンマワシを遣ひツ放しにするのは一期で、先づ雲を描いて月に見せるのが二期で、描かぬ月の影を水に見せるのが三期で、ツマリ月も畫かず、雲もあらぬ冬の夜の、何處か月の寒い心持を、或る物体に移して見せるのが四期ではないか、ブンマワシの月を、刷毛で塗り隠す位なら、誰でも出来る、が、その月を月と云はずして、月の心持を見せるのは、経営惨憺の極で無くては出来ぬ 》 幸田露伴

《 敵兵と英雄的に渡り合うことを夢見たWW1の志願兵は泥水の塹壕で毒ガスに悶死し、顔や手足を吹っ飛ばされた姿で何十年も生きながらえた。戦火は大陸で上がるものと思っていた日本人は、わが家が町ごと焼き払われるとは想像しなかった。次の戦争への期待もしくは予想は、どんな形で裏切られるだろう。 》 芦辺拓

 ネットのうなずき。

《 籾井NHK会長の発言が物議を醸しているが、一番問題とすべきは「政府の意を汲んだ放送は当然」」と考えていることだ。氏は、NHKを「国営放送」と勘違いしているが、国民から徴収する聴視料で運営する「公共放送」だ。政府の広報放送ではなく、国民を第一に考えるべきだ。 》 流山の素浪人

 ネットの拾いもの。

《 世界のすべてが見えすぎてつらい。(新しいめがねに慣れない) 》