「地獄篇」

 朝刊を開くと、東京のテレビ局四社の朝の番組そろってかっぽう着の研究者の話題。かわいい三十歳だからなあ、この人一人で世情ががらりと変わってしまう予感。来年の今ごろが楽しみ。

《 もし「特別な環境下では、動物細胞でも“自発的な初期化”が起きうる」といったら、ほとんどの生命科学の専門家が「それは常識に反する」と異議を唱えることでしょう。しかし、理研発生・再生科学総合研究センターの小保方研究ユニットリーダーを中心とする共同研究グループは、この「ありえない、起きない」という“通説”を覆す“仮説”を立て、それを実証すべく果敢に挑戦しました。 》
 http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/digest/

 現代の芸術こそ「“通説”を覆す」「常識に反する」作品が求められている。リトグラフ作家、多摩美准教授の佐竹邦子さんから今年のカレンダーを恵まれる。凄い、と感心した「 Field of the Air Element 」140×255cm 2005年が11・12月を飾っている。やはりね。

 暖かいが強い西風。富士山東斜面には雪煙が立っている。遠出は止めてブックオフ長泉店へ十九冊売り、五百円。河合隼雄心理療法序説』岩波書店1994年8刷、津原泰水『瑠璃玉の耳輪』河出書房新社2010年初版帯付、諸橋轍次荘子物語』1996年14刷、ジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』文春文庫2012年4刷帯付、計420円。十四冊減った。

 ダンテ神曲』の「地獄篇」を読んだ。以前寿岳文章の古風な訳文で読んだけれど、古文調故いまひとつ楽しめなかった。この河出書房『カラー版 世界文学全集』1968年初版の平川祐弘訳は、文章が分かりやすくてすっきり理解できる。平川訳の河出文庫『地獄篇』2008年初刊は、全集本より字が大きくて訳も新しいけど、ギュスターヴ・ドレの精緻な挿絵が理解を助ける文庫を横に置きながら、この堅牢な本で読む。居住まいを正して古典を精読、というご立派な読書家気分に浸れる。
 それにしても、印刷の進歩にあらためて驚く。原色カラー印刷の美術本は古いものは使い物にならない。けれども、明治時代の美術雑誌『国華』のように、木版画だけでなくコロタイプ印刷の白黒写真が素晴らしい本もある。

 ネットの見聞。

《 「誤解を招いた」と言うのであれば、「真意」がどこにあって、その「真意」のどの部分がどんなふうに「誤解」されているのかについて、説明する責任が生じるはずなんだけどなあ。 》 小田嶋隆