「鯉沼家の悲劇」

 春風駘蕩。自転車でブックオフ函南店へ。有栖川有栖『長い廊下がある家』光文社2011年初版帯付、藤野可織『爪と目』新潮社2013 年初版帯付、オリバー・サックス『火星の人類学者  脳精神科医と7人の奇妙な患者』早川書房1997年3刷帯付、乾くるみ『カラット 探偵事務所の事件簿1』PHP文芸文庫2011年8刷、関川夏央『家族の昭和』新潮文庫2010年初版、鳥飼否宇『樹霊』創元推理文庫2009 年初版、計645円。

 宮野叢子(むらこ)「鯉沼家の悲劇」(鮎川哲也・編『鯉沼家の悲劇』光文社文庫1998年初版収録)1949年発表を読んだ。山紫水明 の地、平家の落人の家系を誇る旧家鯉沼家で起こる連続殺人事件。

《 鯉沼家の空気の中には、近寄り難く入り難く見えながら、ひと度それに近寄り、入り込んでしまえば、今度は容易にそれから抜け 出すことの出来ぬ──たとえて言えば、澱んだ古沼から立ちのぼる毒気を含んだ瘴気が、気づかぬ程にゆるやかに生物の命を毒して行く ように、次第に人に魅入り、徐々に同化して行く──そのような、言うならば、魔気とも言うべきものが確かにあるのだ。 》 第九章  蝶一郎

《 と呼びかけると、じいやはゆっくりと振り返り、ふと、人の心を竦ませるほど、異様に輝く強い眼差しで僕を凝視め、その眼差しの 中に、動くともなく微かに動く小波(さざなみ)の、細かい光りのきらめきのような色を浮かべた。 》 第七章 弥平じいや

 古風というか調べの整った濃やかな文章が、巧みに事件への期待を、潮が次第に満ちてゆくようにゆっくりと高める。そして三分の二 を過ぎてやっと事件が起こる。それまでの濃密な描写の筋立てから一転、殺人事件が立て続けに起き、解決も足早に。もったいない。

 ネットの拾いもの。

《 年収1000万を超えると寿司が止まって見えるけど
  年収が100万を切ると寿司どころか水道もガスも電気も止まって見える。 》