「 ホック氏の異郷の冒険 」

 何を読もうかな、と本の連山から目についた井上勝生『幕末・維新』岩波新書 2010年13刷を開くと、104頁にこんな記述。

《 初代イギリス公使オールコックの場合も同じである。オールコックは、 下関四国連合艦隊砲撃事件をリードした対日強硬派であり、日本を「半ば 未開の東洋の一国民」と見ていた。だが時に違う観察が紛れ込む。一八六○ (万延元)年、富士山に登頂した帰り道、伊豆の韮山あたりの「小さな 居心地のよさそうな村落や家々」を通りかかった時の彼の記述である。
 「封建領主の圧倒的な支配や全労働者階級が苦労し、呻吟させられている 抑圧について」、「かねてから多くのことを聞いて」いる。だが「これらの よく耕作された谷間で、「ひじょうなゆたかさのなかで家庭を営んでいる 幸福で満ち足りた暮らし向きのよさそうな住民」を眼にすると、これが「 圧制に苦しみ、過酷な税金をと立てられて窮乏している土地」だとは「とても 信じがたい」と。 》

 韮山(現・伊豆の国市)、田方平野が浮かぶ。でも続けて読む気にならず、 加納一朗『ホック氏の異郷の冒険』天山文庫1989年初版を本棚から抜く。 S・H、サミュエル・ホックとはシャーロック・ホームズの変名。一八九一 (明治二四)年の秋、語り手の医者三十六歳の榎元信は、懇意の四十七歳の 農商務大臣陸奥宗光から急な呼び出しを受けた。榎元信は渋谷松涛の陸奥宗光 宅でホック氏に会う。謎の女に盗まれた機密書類を二人で奪還してほしい、 という依頼。国内外謎の勢力の争奪戦が始まる。そして密室殺人。

《 「面白い。ぼくははじめて事件に魅力を見出したよ。これまでのところでは、 ぼくはせいぜい助言にすぎなかった。だが、出入口の閉ざされているなかでの 殺人事件とは……」
   サミュエル・ホック氏はひとりごとのようにつぶやいた。これまで冷静さ を決して失わなかった彼が興奮するのを私ははじめて見た。 》

 二転三転する犯人像、息もつかせぬ冒険譚。明治の有名人がぞろぞろ出て来る。 面白かった。当時の外交事情を現在に引き合わせて考えてしまう。国同士の勢力 争いは……変わらない。

 ブックオフ長泉店で二冊。新井満・文/黒井健・絵『この街で』PHP研究所 2006年初版帯付、谷川俊太郎『夜のミッキー・マウス』新潮社2003年初版帯付、 計216円。前者は黒井健を好きな知人女性への贈呈用。

 ネットの見聞。

《 戦争関連の博物館や史料館は、日本中にたくさんある。しかし、 たしかに規模は小さく、訪れるひともまばらであるものの、これほど 戦争の悲惨さをストレートに表現している展示施設は、日本国内でも珍しいはず。 その意味でしょうけい館は貴重な存在だし、恐ろしいほどの勢いで右傾化が進む 現在の日本にあって、もっともっと脚光を浴びなくてはならない施設だ。 》  都築響一
 http://roadsiders.com/backnumbers/article268.php

《 「軍隊はもはや国を守れない。相手を破壊するだけだ」(第二次世界大戦のころ 空軍技術士官だったアーサー•C•クラークがミサイル時代の到来に際して部内誌で 分析した言葉) 》 鯨統一郎

《 オーウェルの『1984』で有名なのは、次の3つの「党のスローガン」だろう。 「戦争は平和である(WAR IS PEACE)」「自由は屈従である(FREEDOM IS SLAVERY)」 「無知は力である(IGNORANCE IS STRENGTH)」2014年の日本ではリアルすぎる。 》  山崎雅弘

 ネットの拾いもの。

《 MJといえば昔はマイケル・ジョーダン、今やみうらじゅん。 》