「 クレーの絵本 」

 谷川俊太郎『クレーの絵本』講談社1995年初版を読んだ。絵本というと児童向けの 絵本を思ってしまう。安っぽい印象をぬぐえない。「クレーの画集」あるいは 「クレーに寄せる詩」でもすれば、と思うのだけれど、理由があるのだろう。谷川は 巻末の「魂の住む絵」で書いている。

《 クレーの絵に現れているものは、私たちがふだん目にしているものとは違う。 》

《 言葉で彼の絵をなぞることは出来ないと私たちは思う。クレーは言葉よりもっと 奥深くみつめている。 》

《 クレーの絵は抽象ではない。抽象画には精神は住めても魂は住めない。 》

 詩人らしい言葉遣いだ。うまいことを言うわ。

《 若いころから私は彼の絵にうながされて詩を書いてきた。 》

 クレーは印象派とかの流派に属していたかなあと思い返すと、谷川俊太郎にも 単行者の印象がある。「ケトルドラム奏者」に付された詩。

《  どんなおおきなおとも
   しずけさをこわすことはできない
   どんなおおきなおとも
   しずけさのなかでなりひびく

   ことりのさえずりと
   ミサイルのばくはつとを
   しずけさはともにそのうでにだきとめる
   しずけさはとわにそのうでに            》

 この本に掲載されている絵で実物に接して記憶しているのは、『猫と鳥』1928年と 『パルナッソスへ』1932年の二点だけ。前者の大きさは38×53cm、後者は100×126cm。 前者は強烈な印象。後者は大きいけれども印象は薄かった。中学三年の時、学習雑誌 『中三コース』学習研究社の折込で葉書大の印刷でクレーの水彩画『秋の訪問』1922 年に深く感動した。先年ブックオフで購入した集英社の『アート・ギャラリー クレ ー』1985年でこの絵にやっと再会できた。21×27cmという、原画のサイズ26×33cmに 近い大きさが嬉しかった。ネットの不鮮明な画像では『秋の使者』という題。

 クレーの絵は読む絵だと思う。筆触や色の配置、構成を直感で見る絵ではない。 クレーは、セザンヌ、ファン・ゴッホピカソ、ダリら近代現代美術史に燦然と名を 遺す芸術家たちとは一線を画す、または距離を置いている。私が惹かれるクレーの絵は 多くはない。クレーの理知的な緻密さに息苦しさを感じて眼を逸らせていたようだ。

 『アート・ギャラリー クレー』、千足伸行の図版解説。

《 しかしここでもこの絵の真の主題はクレーの線描そのものである。線は何かを 再現し、説明するものではなく、線そのものがひとつの表現であり、形に応じて 線がひかれるのではなく、線が形を、またそれぞれに応じた精神的内容を創造して いるのである。 》

 深く同意。線の魅力といえば、北一明の書であり、女性初の安井賞画家上條陽子 のデッサンだ。「それぞれに応じた精神的内容を創造しているのである」。
 生きた線を創っている人は身近にいるが、灯台下暗し、その線の深い魅力に 気づいた人は、まだいないようだ。

 毎日新聞6月29日「今週の本棚」の座談会、坪内稔典の発言。

《 加藤楸邨の80代の俳句で、「天の川わたるお多福豆一列」というのがあります。 マンガみたいな俳句ですが、作者は全然違うことを言っていて、奥さんを亡くした 後の俳句なので、多分作者が描いていたのはお多福豆のような奥さんの仲間たちが あの世に行っている風景だったと思うんですね。だけど、読む人は全然そんなこと 知らないから笑っちゃう。そういうところが俳句は面白いと思うんですね。 》

 クレーは生真面目な人ではなかったか。絵からはそんな印象を受ける。とことん 研究して絵に取り掛かる。その思索の先にある見届け得ないものをクレーは描こうと 試みた。けれども、私はそのような正攻法の考究は止めて、坪内稔典の話のように 門外漢の見方でクレーの絵を好き勝手に鑑賞したい。最晩年の天使の線描はいいけど ……ね、とか。

 知人女性からメール。

《 そごう美術館で「四谷シモン」初めて見ました。久しぶりのワクワク! 》

 状況劇場での役者四谷シモン女形が見事に決まっていた。その刹那を体験。 僥倖だった。

 昨夜、友だちが町おこし用に制作したロゴマークをメールで送ってきた。一目で 素晴らしい! と直感。きょう見てもやはり、粋。公開が楽しみ。

 ネットの見聞。

《 アリ対猪木戦、ついに出た。世紀の凡戦と言われたがどうして、 これほどの真剣勝負は滅多にお目にかかれない。「立って闘え猪木!」と屈辱的な ヤジが飛ぶ中この戦法に徹した猪木は凄かった。今見ると終始優勢なのは猪木。 アリは恐ろしかったに違いない。 》 椹木野衣

 当時テレビで観戦。ヘンな試合と思ったが。当時はまだ若かった。

《 田中角栄が国交が途絶えていた中国と日中共同声明を調印した時、中国首席は 毛沢東、首相は周恩来。いま、習近平みたいな小物に鼻もひっかてもらえない 安倍晋三。「門戸を開けて待っている」。それでも誰も来ない国って何なんだと。 》  藤岡真

《 北朝鮮よりも先に韓国を訪れた中国の習主席。日本の集団的自衛権問題の おかげで韓国との関係が急速に縮まった。中国は、パールハーバーでの環太平洋合同 演習には中国版イージス艦を派遣して米中関係を深めたし、米・中・韓の関係が 深まる中で、日本は北朝鮮との関係だけが深まった感じです。 》 安田登

《 ドイツとの比較をもう一話。今回の解釈改憲は、麻生副総理が言った ナチスの手口の実践である。内閣に全権を委任し、憲法の事実上の変更まで行う。 ただし、ドイツは一応全権委任法を作ったが、日本では安倍が総選挙での勝利を 唯一の根拠に、国民から授権されたと言い張る。いわばナチス以下だ。 》  山口二郎

 ネットの拾いもの。

《 李恩恵にしたって安倍を袖にしたところに習近平の爺が擦り寄ってくるのも 迷惑だよなあ。なんで、あたしの周りにはろくな男がいないのよ! 》

《 今日も今日とて仕事で栄に来ているが、昨日CBCに出社した時間より20分遅い だけで広小路げろ混み。この時間って侮れんなあ。 》

 げろ混み。流石、大矢博子女史。