「 モルグの女 」

 昼過ぎに通り雨があったので、気温は30度に届かなかったが、 蒸し暑い一日だった。明日は熱中症に厳重注意。能登の輪島は 危険……。そりゃコワイ。

 ジョナサン・ラティマー『モルグの女』ハヤカワ・ポケット・ ミステリ1979年2刷を読んだ。モルグ morgue とは死体公示所。 1936年の作。華氏91度(摂氏32度超)のシカゴのモルグに始まる 数日間の出来事。モルグから盗まれた若い女性の死体は誰なのか。 なぜ盗まれたのか。転がる石のように、舞台は転々と移ってゆく。 追うごとに深まる謎。追うごとにピッチの上がる酒。ウィスキー、 ジン、ラム、シャンパン……。酒だらけのミステリとも言える。

《 ウィリアムズは自分のコップに、指を八本並べたぐらい ウィスキーを注いだ。 》 169頁

 翻訳は少し古い感じがするが、なにせ昭和十一年の作。時代を 感じさせる味わいとなっている。内容は古びていない。ぐいぐい 引き込まれる。いや、引っ張りまわされる。そして嬉しいのは ちょいちょい顔を出すユーモア。

《 「君は清潔な感じがするおかたとは、とてもいえないからな あ」とオマリーが。
  「よく洗えば大丈夫だ」とクレイン。 》 271頁

《 クレインは眼を開けた。柔らかな灰色の光線が部屋に漂つて、 壁の競馬の版画がぼやつとし、カーペットと家具の緑と赤が ホィッスラーのパステル画のように見える。 》 95頁

 ホィッスラーか。彼のパステル画は知らない。

《 音楽がむせび泣き、呻き、わめきたてている。サキフォンと、 興奮したドラムペットと、ピアノが、書かれたメロディから、 途方もない即興演奏にそれている。ルイ・アームストロングの スイング。 》 197頁

 昨日引用した山口雅也『ミステリー倶楽部へ行こう』講談社文庫 2001年初版から。

《 同様に、一九三六年のジョナサン・ラティマー『モルグの女』 でも、同時代音楽としてのスイング・ジャズがふんだんに登場する。 作中、探偵たちはシカゴのアングラ・シーン巡礼といった感の 捜査をするのだが、その過程で、単なるダンス・バンドに飽き飽きし、 本当のスイング・ジャズを演りたいと嘆くジャズメンが 出てきたりすると、ジャズ史における当時の貴重な証言を聞くようで 感慨深い。この時代は、ビッグ・バンド・ジャズが単なる ダンスの伴奏演奏から、踊らずに鑑賞するための音楽へと変革 しつつある時期でもあったのだ。 》 416頁

 ネットの見聞。

《 80年代や90年代にしたって、思想は、「逃げろや逃げろ」 (浅田彰)、「終わりなき日常を生きろ」(宮台真司)と 命令調で「生き方」を差し出したのだし、そこが受けた。 》  栗原 裕一郎

《 とするなら問題は、こうパラフレーズされるべきだろう。 近代から現代まで、戦後も戦前も、高度経済成長もバブルも 長期不況も、モダンもポストモダンも、左も右も、現状否認も 現状肯定も関係なく、なぜ日本において思想はいつも説教くさい 自己啓発としてしかありえなかったのかと。 》
 http://real-japan.org/%e8%87%aa%e5%b7%b1%e5%95%93%e7%99%ba%e5%8c%96%e3%81%99%e3%82%8b%e3%83%9d%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%a2%e3%83%80%e3%83%b3-2/

《 ところでさっき読んでたブログで、「アルカイダイスラエルを 一度も攻撃しない」といってたが、鋭い指摘だ。 》

 ナットの拾いもの。

《 この暑さで脂肪だけ溶けてくれないだろうか。 》