「ヴェルレーヌ詩集」

 ポール・ヴェルレーヌ『世界詩人全集8 ヴェルレーヌ詩集』(堀口大學・訳)新潮社 1967年初版を読んだ。二番目の詩「かえらぬ昔」冒頭四行。

《  思い出よ、思い出よ、僕にどうさせようとお言いなのか?
   その日、秋は、冴えない空に鶫(つぐみ)を舞わせ
   北風鳴り渡る黄葉の森に
   太陽は単調な光を投げていた  》

 気持ちがゆらゆら揺れる。いいねえ。原題は「 Nevermore 」。エドガー・アラン・ポー の詩『大鴉』のリフレイン。大西洋を渡る詩魂。太平洋をはさんで日夏耿之介(ひなつ・ こうのすけ)は「 Nevermore 」を「またとなけめ」「またとはなけめ」と訳した。

 ヴェルレーヌの軽やかな詩篇、その奥の深い思索の下地を感じる。しかし、なんといっても 翻訳の妙に感じ入ってしまう。

《  あたしたちには
   一休さまも、業平朝臣(なりひらあそん)も
   光源氏の君までが、出会いのたびに
   いろ目忘れぬおんそぶり。            》 「おぼこ娘の歌」

 フランス語の詩ではどうなっているんだろう。

《  鈍い角度の天上から
   月光の鉛の色が降っていた。
   とんがり屋根のてっぺんから
   もくもくと黒いけむりが切れ切れに
   5の字の形に立っていた          》 「パリ・スケッチ」

《  白鳥(しらとり)の白妙(しろたえ)の君
   おん肌のにおいの著(しる)し
   けざやかに                  》 「クリメーヌに」

 素人は浅く考え、重重しく動く。
 玄人は深く考え、軽やかに動く。

 堀口大學の解説によると、若い日に上記の詩をものにした天才詩人の人生は相当面白い。

《 ヴェルレーヌが一生独身で暮したとしたら、または幸福な結婚をして平和な家庭生活を 営んだとしたら、一生の間、あれほど素晴らしい詩を書き続けたであろうか? 》

《 怒り易くて多情な、悪の誘惑に脆いこの詩人には、夫たる資格なぞどこにもなかった。  》

《 ヴェルレーヌはまた非常な醜男だった。若い頃の彼は、実に気の毒なほど醜かった。  》

《 傲慢で粗野、人を人とも思わぬランボーの行動は、ヴェルレーヌ以外の全家族を 憤慨させるが、ヴェルレーヌだけは、全面的に魅了され、陶酔しきっていた。 》

 ブックオフ函南店で文庫本を三冊。シャーロット・マクラウド『ウーザック沼の死体』 扶桑社ミステリー1989年初版(栞紐が付いているのは初めて)、『厭な物語』文春文庫 2013年3刷(アガサ・クリスティーら十一人)、日本推理作家協会・編『ミステリー傑作選  LOGIC 真相への回廊』講談社文庫2013年初版(贈呈用)、計324円。この何日か 空振りが続いた。やっと買えた。

 ネットの見聞。

《 SUGOI JAPAN 》
 http://sugoi-japan.jp/about.html

 マンガ部門で読んだのは吾妻ひでお失踪日記』のみ。持っている本もこれだけ。 アニメは無し。ラノベも無し。エンタメ小説では今野敏『隠蔽捜査 果断』、伊坂幸太郎 『死神の精度』、海堂尊チーム・バチスタの栄光』、道尾秀介『向日葵の咲かない夏』、 奥泉光『東京自叙伝』の五冊。持っている未読本は十二冊。購入予定は三冊。