「 前衛の遺伝子 」

 足立元『前衛の遺伝子  アナキズムから戦後美術へ』ブリュッケ2012年2刷を 読了。特に興味深かったのは、第五章「反シュルレアリスムの美学」と第六章 「大東亜のモダニズム」。どちらも戦時下を扱っている。

《 すなわち、日本のファシズムの美学は、あくまで個性主義に基づこうとする 日本のシュルレアリスムを批判したことで、結果的には一面でシュルレアリスムの 本質に接近していたのである。 》 197頁

《 その西洋理解は多くの点で誤ってはいたが、「超個人史的全体的意思」を掲げて 超越の美学を構築しようとしたところは、もう一つの「前衛」芸術思想というべき 可能性もあった。 》 198頁

《 つまり、前衛芸術には、〈対抗〉〈接合〉〈遊び〉〈運動〉の四つの特徴が あるのだ。 》 314頁

 加藤郁乎(いくや)の俳句と詩を連想した。彼はまさしく文学の前衛だった。 イクヤの前にイクヤ無くイクヤの後にイクヤ無し、と言われた。

 膨大な一次資料の読み込みによって、ほお〜、という指摘、発見がいくつも。 渾身の作だ。この本の成果を受けて、別な視点からの美術書が書かれる予感がする。

 ネットのうなずき。

《 別品。いいねえ。世界で1位とか2位とか、何かについてそんな順位を競い合う 野暮な国よりも、戦争も原発もない「別品」の国がいい。 》 天野祐吉

《 良い本を安値で買うのは、何物にも代え難い快感をもたらすが、良い本を高値で 誇り高く買うというのにも別種の快感があり、これはこれで気持ちが豊かになる体験 なのである(めったには出来ないが…)。 》 古本屋ツアー・イン・ジャパン