「 フラジャイル 」

 天気晴朗。開戦記念日。

 フラジャイル Fragile なのだ。昨日の足立元『前衛の遺伝子』「第八章 一九五〇 年代の前衛芸術における伝統論争」で、イサム・ノグチ岡本太郎丹下健三に 言及した部分。

《 とはいえ、不仲になったわけでもないものの、やがて丹下はノグチから乖離して、 岡本太郎へと接近してゆく。 》 298頁

《 ノグチは別のところで「fragile(脆い)がむしろ好きなのだ」とも語っていた。 しかし、丹下は日本の伝統の中に、国際的なデザイン競争の中で打ち勝っていく 「ディオニュソス的な」力強さを戦前から求めていたのである。そこで、丹下は ノグチの日本美術観から離れ、岡本太郎の主張する縄文の力強さを訴える姿勢に 同調していくようになったと考えられる。 》 299頁

 イサム・ノグチに親近感を覚え、岡本太郎に違和感を感じる素は、フラジャイル の有無なのだ。

《 しかし、伝統を、固定的な時間軸としてではなく、自由にどこからでも 選択できる資源として捉えていくという点で二人は共通していたし、その姿勢は 純粋性と独創性と単純さを至上の価値とするモダニズムからは一歩も二歩も 抜け出したものであったといえる。 》 303頁

 岡本太郎の絵画に魅力を感じない。前面へぐいぐい押し出そうという意欲は いやというほど感じるけれども、そこまで。力を感じても、それが魅力には つながらない。理智が勝っているせいか。岡本太郎は作品を見ることに関しては 卓越した人だった。が、絵画や立体作品はそれほどでもない。イサム・ノグチの 作品の人々の受容と需要と較べれば、違いは歴然。強さだけでは駄目。それは 自民党の国土強靭化政策への疑問へとつながる。強靭化は硬直化を招く。松岡正剛 『フラジャイル』ちくま学芸文庫2008年3刷の解説で高橋睦郎は記している。

《 私たちの日本は四方を海に囲まれ、狭く、険しく、地震・風水害など天変地異に さらされた、それこそフラジャイルな国土だ。そこに育った日本人、日本文化は 当然のことに弱々しいはず、もし強いとしても弱々しさを逆手にとっての強さで なければなるまい。 》

《 たとえば、私たちの国は国際社会においてこれまで弱者の言うばかり聞いて きたが、こんどは自身強者の列に加わろうとして、これまで言うことを聞いてきた 強者に拒まれている。 》

 松岡正剛は「文庫版あとがき」に記している。

《 これまで人間の歴史は、弱さを辱め、弱さを潰していくことによって肥大 してきたといっていいでしょう。(中略)しかし、歴史は「強がりが勝ちつづけてきた」 と言っているでしょうか。「勝者は永遠だ」と証明したことがありますか。実は逆だった のではないですか。古代ローマ帝国もナポレオンのヨーロッパも、巨大銀行も コングロマリットも、次々に崩壊するか合併をくりかえしているにすぎないのでは ありますまいか。 》

《 フラジャイルなものこそが、実は最も繊細な本質をもちながらも、最も過激な 思想や存在であろうとしていると私には思えます。 》

《 本当のユニヴァーサル・コミュニケーションがあるとするなら、それは資金が すぐに底をつきそうな小さな美しい町やすぐにポイ捨てができそうな軽くて柔らかな 製品を、われわれがどのように守りたいかという決断をすることによって、 始まるのではないでしょうか。 》

 フラジャイル=源兵衛川からの出発。昨日の足立元『前衛の遺伝子』をそんな視点から 読み替えたい。その視線の先には山口昌男『「挫折」の昭和史』がある。

《 今日、我々が「挫折」を介して見つめようとするのは、控え目で壊れやすい 知のネットワークの、ほとんど神話的と言ってよいつながりであると言えるのかも 知れない。 》 「実験的〈知〉の系譜学へ」

《 さて油彩やパステルにおけるシェレは、十八世紀のワットーの模倣であり、 綺麗であるとはいえ、やはり二流の作家であると言わざるを得ない。 》 「補遺1  知のダンディズム再考」

 このような視点が、『前衛の遺伝子』に欲しかった。山口の「あとがき」にはこんな 一文。

《 竹中英太郎の事跡を追ってみると、果してファシズムの真っ只中に生き残った 前衛芸術というベルトルッチの命題に過ちはなかったということが確かめられた。 》

 ブックオフ長泉店で文庫本を三冊。大下宇陀児(うだる)『石の下の記録』 双葉文庫1995年初版帯付、小野二郎ウィリアム・モリス』中公文庫1992年初版、 吉本隆明『定本 言語にとって美とはなにか II 』角川ソフィア文庫2001年 初版帯付、計324円。

 ネットの見聞。

《 時代を読んで、時代に乗るのは大切だが、時代に乗り過ぎると、流される。 》  ネットゲリラ

《 スペイン。1%既得権益層だけが薔薇色の生活を享受。ここで昇り竜の如く ポデモス党が出現。「国民99%の利益のための純政策を掲げ、実現させよう」 とする政治団体が大学の教授たちを中心にして成立した。たった成立10ヶ月で 第二の最大政党に。日本では紹介されない。真似をされてはいけないから。 》  TertuliaJapon