「 モロイ 」

 投票をすませる。同日の三島市長選は、現職以外に出馬はなく無投票。自転車を 走らせてブックオフ長泉店へ。手ぶらの帰り道スーパーへ寄り、食パンを買い、 小さめの段ボール箱に入れる。箱は処分本用。

 サミュエル・ベケット『モロイ』白水社1992年新装初版を少し読む。老化の進む オツムはもろい、なんて。冷え〜。少し読んだら眠気。蒲団にもぐる。こんなに寝ても 夜も眠れる。病気かい。近所のスーパーで食料を買い、『モロイ』を読み継ぐ。昔、 アンチ・ロマンという小説が流行ったなあ。

《 そのとき突然、私は自分の名前を思いだした。モロイ。私はモロイですと叫んだ、 無分別に、モロイ、今思い出したんです。 》 29頁

《 私ができるだけものを言うのを避ける理由の一つはまさにここにある。私はいつも、 言いすぎるか言い足りないかなのだ。それが私にはやりきれない。 》 47頁

《 大通りだったはずだ。通りすがりの善男善女にも、あたりをうかがうおまわりにも、 やたらに踏みしめ、なにかを待ち、なぐることもできないあのかずかずの足にも、 手にも、叫ぶのにまで気を使うあの口にも、ぽつぽつ降りはじめた空にも、外にいること、 人の目にさらされ、取り囲まれていることにもうんざりした。 》 48頁

《 いわば、私の自由になるのは片足だけだった。精神的には、一本足だったから、 いっそのこと腿のつけ根のところからもぎとられていたら、もっとしあわせで、 もっと軽かったに違いない。 》 49頁

 老母の面倒をみる老人の独白。若き日に読んだら、途中で投げだしていただろう。 今ならよくわかる。今こそ読むとき。

《 そこでただこれだけをつけ加えておこう、ほぼ百メートルごとに立ち止まった ということを。足を休めるためだ、よいほうのも悪いほうのも、足ばかりじゃない、 足ばかりじゃあ。サドルからおりたとは言えない。両足を地面について、両腕を ハンドルにもたれて、腕の上に頭をのせて、馬乗りになったままで、気分がよくなる まで待った。 》 20頁

 そして、勝手な連想。自転車なのだ。『モロイ』は1951年に発表。フラン・ オブライエンは1940年に自転車が主軸となる『第三の警官』を完成、死後の1967年に 刊行。

《 「サドルの位置を高くすることについてあなたのご意見は?」 ギラーニィが尋ねました。
  「質問は乞食が扉を叩く音のようなもので、考慮するに当たらぬものなのだ」と 巡査部長が応じました。 》 『第三の警官』

 ネットの拾いもの。

《  ♪ 投票へは もう何度も行きましたね ♪ 》