「 本を読む前に 」

 荒川洋治『本を読む前に』新書館1999年初版を読んだ。1990年代後半に発表されたものが ほとんど。これほど本音をズケズケと書き、辛辣に批評(批判?)した書物は久しぶり。 昭和の時代には好んで論争を招く文章がずいぶんあった。平成になって文学論争は 鳴りをひそめた。さりげなく痛烈な指摘におお、とたじろぐほど。

《 なんの関係もないのに老舗「歴程」(各種詩人賞の選考委員の多くがここにいる) の同人になったり、あげくはその編集をしたりして、大家たちにとりいる。詩の世界は いまや死の世界である。 》 34頁

《 松浦寿輝シャンチーの宵」(同)は吉田健一の小説の文体を「かたちだけ」 まねたもののようの思われる。長いセンテンス、接続詞のくねった用法など、そっくり。 》  111頁

 柴田元幸の翻訳について。

《 柴田氏の発言がのびのびしていておもしろい。そのいちばん元気があって 信頼されている訳者が、ポール・オースターというおそらくは二流以下の作家の 作品を多量に紹介しているのだから、「翻訳」というものはむずかしいものなのだろう。  》 130-131頁

《 国際舞台への関心は、今日の国際化時代と結びついている。大江健三郎村上春樹宮本輝……。 》 132頁

《 日本文学が日本文学としてしっかりしていれば、それで十分。(中略) やたらと海外に出たがるのは、いなかもののしるしである。 》 132頁

 吉本隆明『言語にとって美とは何か』について。

《 だがぼくは孤独な書物であることを通り越していまでは「ローカルな」書物のほうへ 歩きだしているのではないか。どこかでそう感じてしまうのである。 》 127頁

《 吉本氏の提出していることはあまりに「独走」的であり、「比較できない」性質の ものなので、読者の誰もが理解するというわけにはいかないだろうと思う。 》127頁

 独走。北一明の焼きものは独創であり独走だった。比較できない性質のもの。 現役の味戸ケイコ、白砂勝敏の作品もそうかもしれない。他にも俎上にあがった作家がいるが、 それは措いて。

《 真の「文学的想像力」とは、依頼状を書くことである。 》 24頁

《 本当に思っていることを、うまく書けない文章のほうがときには文章としては 上であることを、書き手はいつも知っておかなくてはならない。だいじなことだ。 》  123頁

 昨日午後、沼津市の喫茶店、カフェ・ブランでコーヒーを飲んでいると、写真家の岡部稔氏に 遭遇。上旬にあった写真公募展、グランプリ無しの準グランプリのお祝いを述べる。来年夏、 そのEMONフォトギャラリーでの企画展を祝す。最終選考会のプレゼンテーションの模様を聞く。 審査員は飯沢耕太郎、『美術手帖』編集長ら。なかなかおもしろい。岡部氏は持っていなかったので、 飯沢耕太郎の本を参考に、と事前に貸した。
 http://okabeminoru.com/
 http://www.emoninc.com/

 20日の白砂勝敏氏からは、画家野見山暁治文化勲章受章受賞祝いの席に名古屋芸術大学名誉教授 十時(とどき)孝好氏に連れられて出席。いろいろな方に紹介された、とうれしい話を聞いた。 K美術館の白砂展には、新制作展で白砂作品を高く評価した武蔵野美術大学名誉教授加藤昭男氏が来館。 激励してくださった。
 味戸ケイコさんの展示には多摩美術大学教授椹木 野衣(さわらぎ・のい)氏が来館。『美術手帖』 に素晴らしいレビューを発表された。皆さん、広い視野から現在の美術を深く洞察されている。
 そして二十数年応援している林由紀子さん。

《 タニス・リー『幻獣の書』も2月刊行で進行中。装画は林由紀子さんの描き下ろし鉛筆画です。 》

 これは創元推理文庫

 ネットの見聞。

《 なんと、ろくでなし子さん勾留理由開示裁判、傍聴券24枚の枠に当選した私は、必死にメモどりしました。 持ちものは筆記具と財布以外全て預け、傍聴席に警備員が7人立ち並ぶ厳重な法廷。なし子さん陳述を 裁判官が制限するやり取りが、まさに彼女が戦ってきた内容そのもので、思わず涙が出てしまった。 》  早川由美子

《 仮にそうでなくても、ろくでなし子の表現は「ろくでもない」から問題外なのではなく、 「ろくでもない」からこそ対象にされた可能性はないか。たとえ「見せしめ」にさえならなくても、一度 「ろくでもない」ものが取り締まられれば、「ろくでもなくない」ものを取り締まるのは前例ゆえ遥かに 容易くなる。 》 椹木 野衣
 http://www.art-it.asia/u/admin_ed_contri9_j/pKXVxA1aJtlCPYW3b6yw

《 在日米軍と日本のエリート官僚で組織された「日米合同委員会」の存在 》
 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141215-00040591-playboyz-pol

《 おそらくこの五年ほどで読んで、もっとも衝撃的だった本が矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と 「原発」を止められないのか』集英社インターナショナルだ。 》 田中和生毎日新聞夕刊「文芸時評」冒頭)
 http://www.shueisha-int.co.jp/archives/3236

《 メルトダウンはあったが、トリクルダウンはなかった。 》 World News Headline

 ネットの拾いもの。

《 不義理よ、今夜もありがとう。 》