「 東京おぼえ帳 」

 平山蘆江『東京おぼえ帳』ウェッジ文庫2009年初版を拾い読み。「序にかへて」より。

《 明治大正昭和へかけて二十五年もの間、縁あって都新聞といふ尤も東京人に愛された新聞社に つとめたおかげで、生まれ故郷の長崎よりも東京になじみが深くなり、ついつい東京おぼえ帳を 書く気になつた。 》

《 洒脱な筆づかいに誤魔化されなければ、この本の内容が東京という都会の〈色と慾〉であることに いやでも気がつくだろう。》 解説

 東京の回顧録にはほとんど惹かれないが、これはあちこち読んでしまう。やけに生々しいわ。 ゾクゾクする。「林家と春本」、てっきり春本=艶本のことかと思ったら、赤坂芸者の心意気の話だった。

《 新橋なり柳橋なり、名妓宣伝制度をとり、それぞれの売れつ子を東京中はおろか、日本中の ナンバーワンにしようとつとめるのに対して、林家と春本は反対のやり方をとつた。 》 161頁

《 芸者一人一人の人気を外へ散らすまいといふやり方であつた、さうした中から萬龍一人が春本の萬龍 としてあれほどに売れたのだから、考へてみれば萬龍の持つた人気はすばらしい。 》 162頁

 そこからお大尽やその妻の大金の使いっぷりが描かれるのだが、途方もない、としかいいようがない。 金は使ったものの価値=勝ち、か。

 明治の雑誌『文藝倶楽部』を何冊が取り出して巻頭の写真頁を見る。明治二十九年の第二巻三編には 「美人と風景」八頁。東京美人・金澤美人・長崎美人・熊本美人・京都美人。十代後半と思しき芸妓たち。 他の巻にも新橋、柳橋、赤坂ほかの芸妓が出ているが、春本では萬龍ではなく春子だった。残念。

 芸妓といえば、四半世紀前になろうか。北一明の主催で、湯河原の海を望む山腹にある演歌歌手の家 (その前の主は画家と聞いた)で宴会が催され、私は末席を汚した。なにせ他の賓客はレコード会社の お偉い方々。なんとも居心地のよろしくなかったこと。そこの宴席に湯河原と熱海の若手芸妓が来た。 ふたりのうち熱海の芸妓に私は舌を巻いた。すべての動作、しぐさに隙がない。そして華がある。名前は 初豆。それから幾星霜。忘れもせぬ2007年の春。知人と熱海駅を降りると、二人の芸者さんがイベントの チラシを配っていた。思い立って「初豆さんています?」とそっと訊ねると、チラシの女性を指差した。 あれえ、看板芸妓だあ。凛としたお姐さん。私の眼に狂いはなかったわ。

 豪勢といえば「画家と骨董屋」。

《 歌舞伎座を一日借り切つて将棋の競技場にしたのも其頃の話だつた。
  それは某家の売立品中、とりわけ皆の目つぼに置かれた大ものが、はからずも東京の骨董商と大阪の 骨董商と同じ値の入札で落ちた時のことで、どちらの手にそれを落すかのとりきめを将棋一手の勝負に 賭けることになり、買切つた歌舞伎座の土間一杯がさしづめ将棋の盤面と定められた、将棋の駒は 新橋芸者の花形からこれを選び、金は小判ちらしの模様、銀は二朱銀一朱銀の小紋、飛車はとび梅に御所車、 桂馬は放れ駒など、いづれも将棋の駒にちなんだ座敷着を染めさせ、歩にはお酌の数をそろえてそつくり おそろひの着物だつた、 》 153-154頁

 「画家と骨董屋」、別の逸話。

《 事のおこりは平岡大尽所蔵の目ぬきの彫りもので、たつた一寸か一寸五分の刀の目ぬきに蛙が十六匹、 殿様行列の画面でコマコマと彫りこんである美事な細工、それが京都の骨董屋に入札され金四十万円なり とかで京都の某家へ持つてゆかれる事になつた。 》 157頁

 で、盛大な送別会が催された。が、それには裏があった。

《 京都の買ひ手といふのは全然架空の人物で花やかな評判を立てるための計略で、それほどの逸品を 京都へ渡すのは東京の名折れだといふ意地つぱりを起させるためだつた。果して四十万円で京都へ行つた 筈の蛙は六十万円とかで東京方の本当の買い手に収まり、その利ざやがそつくり大尽のふところへ入つた わけ、而(しか)も此逸品を一番始めに大尽が浅草あたりの古道具屋の店先で掘出した時、たつた八十銭 だつたとか、無から有を生ずるといふか、八十銭を瞬く中に六十万円まで押し上げる大尽の腕も腕だが 人目を洩れて埋もれてゐる天下の逸品を見つけ出す大尽の眼力の鋭さは古今絶無と称せられてゐる。 》  158頁

 ブックオフ三島徳倉店で二冊。村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、かれの巡礼の年』文藝春秋 2013年2刷帯付、米澤穂信『折れた竜骨』東京創元社2011年3刷帯付、計216円。

 ネットの見聞。

《  誰かの意見に従って生きていれば考えなくて済んで楽かもしれない。嫌われることもない。 でも「自分の頭で考える」はとても大事。留置場ではやってもない事を供述調書に書かれても諦めてしまい 後ですごく後悔してる人がよくいた。みんな凶悪な罪ではないごく普通の人だった 》 ろくでなし子
 https://twitter.com/6d745

《 首相とマスコミの解説委員らの会食に関する内閣答弁書を読んだが、全く中身がない。 集団的自衛権行使容認の懇談会報告書が出たその晩に、総選挙が終わった2日後の夜に、同じ高級寿司店で マスコミ幹部たちは首相を囲み何を懇談したのか。互いに「完オフ」と口を閉ざす。これを密室談合と呼ぶ。 》  ジャーナリスト 田中稔

《 現在の日本は「首相周辺に逆らうと酷い目に遭わされる」のが当たり前のようになっており、 大手メディアも自社の利益と引き換えにそれを消極的に助けている。私が中学生の頃に政治に関心を持って以来、 今の日本は一番「民主主義から遠い」体制だと思う。「権力者は何をやっていもいい」国になっている。 》  山崎雅弘

 ネットの拾いもの。実話。

《 「大人様ランチ」 》

《 電車のトイレにトイレットペーパーがない! 試練に直面した男性がTwitterで救援要請し 絶対絶命のピンチを切り抜ける 》