「 対極 」

 アルフレート・クービン『小説 対極 ─デーモンの幻想─』法政大学出版局1985年 新装初版を読んだ。1908年の出版。

 語り手の画家はドイツ、ザルツブルグギムナジウムで一緒だったパーテラの使いから 二十年ぶりに招待を受けた。運よく大富豪になったパーテラは、中央アジアの一隅に 彼の理想郷を建設した。そこへ夫婦は招待された。

《 ぼくのこころが招待に応ずる方に傾いたとき、以後にどんな運命が待ち伏せしているかを 少しでも予感できたら、ぼくは決しておいそれと承諾しなかったろうし、今日、明らかに別の 人間になっていただろう。 》 26頁

《 まっ先にぼくら夫妻の注目を惹いたのは、夢の国の人びとの服装であった。──笑止!  それは全く時代遅れの一語につきる。 》 75頁

 そこでの奇妙な人たちとの軋轢に、彼の妻は精神に異常をきたすようになる。

《 ぼくは到るところ敵意と嘲笑が充満しているのを感じた。夢の国のあらゆるものに対する 激しい憎悪が、ぼくの正常な思考を奪った。 》 139頁

《 ──パーテラの創造物にたいするぼくの感激は、いまや全く醒め果ててしまった。 》  146頁

 手続きをしてもパーテラになかなか面会できない語り手は、パーテラの宮殿へ直談判に行く。 人気のない数々の部屋を抜けて、彼は瞑目するパーテラを見つける。そして異常な体験をする。

《 ただ、かろうじて思ったのは、〈これはあるじだ、これは支配者だ〉ということだけだった。 ──次の瞬間、ぼくは到底筆舌につくし得ない一種の演技を目撃した。あの目は再び閉じられた。 すると悪寒を催すほど恐ろしいある生命が、彼の顔に宿った。その表情はカメレオンのように ……たえまなく……千変万化したのだ!またたく間に、顔は青年──女──子供──老人のそれへ 変った。 》 160頁

 つづいてライオンに、ジャッカルに、種馬に、鳥に、蛇に変貌。特撮映画場面のようだ。

《 彼が六万五千人に近い夢の国の支配者であるという考えは、否定することが出来ない。彼は、 旧友のぼくから見ても、怪物だった。 》 195頁

《 ──ぼくは夢の国の終末が決定的に近づいてくるのを予感した。 》 255頁

 後半は夢の国の没落〜地獄絵図が圧倒的な幻視力で描写される。

《 療養所で、ぼくは自分が体験した物凄いドラマの魔力を、繰り返し思いめぐらさずには いられなかった。 》 365頁「エピロ−グ」

 読み始めはジェームズ・ヒルトン『失われた地平線』のようなものかな、だったが、正反対。 興奮した。来月白水社から『裏面』という題で別訳が出るので、その前に読んだ。
 http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=07198

 ブックオフ長泉店で二冊。D・M・ディヴァイン『災厄の紳士』創元推理文庫2010年4刷帯付、 マリリン・ウォレス編『シスターズ・イン・クライム』ハヤカワ文庫1991年初版、計216円。

 ネットの見聞。

《 クイーンが描いた世界は「ドラマ」。ロスマクが描いた世界は「現実」。
  良し悪しではなくて。 》 藤岡真

 エラリー・クイーンロス・マクドナルドはミステリ作家。どちらも好き。

《 どんな場合でも胸を張って正義を叫ぶ人は信用しない方がいいです。
  安倍のことですよ。この世の真実は後ろめたい思いを抱きながら、
  モゾモゾと語る言葉のなかにこそあるのです。 》 池田清彦

 ネットの拾いもの。

《 阿呆なくせに口数多い爺い。 》