『箱男』

 安部公房箱男』新潮社1973年初版を読んだ。一昨日話題にした「戦後文学ベスト3」に 挙げられていた作品。導入部の一節。

《 ぼくは今、この記録を箱のなかで書きはじめている。頭からかぶると、すっぽり、ちょうど 腰の辺まで届くダンボールの箱の中だ。 》

 そんな段ボールをかぶって、例えれば目立たない「ふなっしー」みたいなものだ。いや、違うか。 歩く段ボールハウスだ。そんな箱男の一人称小説。とりたてていうほどの筋はない。出会った範囲の 人間関係がすべて。結末近くの一節。

《 じっさい箱というやつは、見掛けはただの直方体にすぎないが、いったん内側から眺めると、 百の知恵の輪をつなぎ合せたような迷路なのだ。もがけば、もがくほど、箱は体から生え出たもう一枚の 外皮のように、その迷路に新しい節をつくって、ますます中の仕組みをもつれさせてしまう。 》  190-191頁

 ここから数行で終わるのだけれど、ここからが始まりのような印象。パソコンもインタ−ネットも なかった1973年の刊行だが、描かれていることは、二十一世紀の今ではないか、と思われるフシも。

《 自分で自分の意思の弱さに腹を立てながら、それでも泣く泣くラジオやテレビから離れられない。 もちろん、いくら漁りまわったところで、べつに事実に近付いたわけじゃないくらい百も承知していた。 承知していながらやめられないんだ。ぼくに必要なのは、事実でも体験でもなく、きまり文句に 要約されたニュースという形式だったのかもしれない。つまり完全なニュース中毒にかかっていた わけさ。 》 84頁

 午後雨が止んだのでブックオフ長泉店へ一箱、410円也。辻邦生『城│ある告別』講談社文芸文庫 2003年初版、辻原登東京大学で世界文学を学ぶ』集英社文庫2013年初版帯付、計216円。

 ネットの見聞。

《 世界を形成する「調和の美」というものが現在も存続しているとするなら、 あらゆる共同体の表面的美を剥離する「疎外の美」の可能性が亀之助の作品には あるような気がします。 》 風間サチコ
 http://kazamasachiko.com/?p=2949

 尾形亀之助についての論だが、「疎外の美」とはすごい発想だ。北一明のデスマスクを連想。

《 過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件は残念な結果となった。悔しい気持ちはわかるが、 自衛隊が人質を救出できるようにすべきとの国会質問は現実味に欠けている。 》 「朝雲新聞社」
 http://www.asagumo-news.com/homepage/htdocs/column/sungen/sungen150212.html

《 国際大会への「選手派遣中止」のニュースが示す通り、日本人は中東や北アフリカ諸国へ 安心して行けない状況になっているが、そんな状況を引き起こした「首相の責任」には踏み込まない。 首相のカイロ演説を機に、日本人が武装勢力の「標的」になった、という動かしがたい現実を、 メディアは報道しない。 》 山崎雅弘