「 地獄と髑髏 」

 椹木野衣『後美術論』美術出版社、「第9章 地獄と髑髏 ヘルター・スケルター(前編)」 を読んだ。「ヘルター・スケルター」は、前編では「しっちゃかめっちゃか」「血の惨劇」 「地獄と髑髏」の三つに当てられている。

《 だが、そんななかにあってさえ、ポール・マッカートニーのペンによる「ヘルター・スケルター」は、 ひときわ異様な響きで突出していた。のちのいわゆるヘヴィ・メタルを先取りし、なおかつ 21世紀に聴いても他に例を見ないくらい奇怪な前奏と叫び、そして終幕部に訪れる能天気すぎる 混沌とリプライズは、まさに「ヘルター・スケルター」(しっちゃかめっちゃか)と 呼ぶのがふさわしい。 》 378頁

《 けれども、このナンバーは発表されて以降長く封印され、ビートルズが解散したあとも、 作曲者のポール・マッカートニーによって演奏されたという話さえ伝えられることがなかった。 なぜか。この曲を悪魔の所業のための神の啓示として受け取った殺人集団が、1969年の ロサンジェルスに忽然と姿を現したからである。それが、チャールズ・マンソン率いる「ザ・ ファミリー」だった。 》 378頁

《 この頃、グループの作曲と編曲の要となるブライアアン・ウィルソンは、過度の薬物依存と 精神的な荒廃に苛まれて公演やレコーディングにも支障を来すまでとなり、加えて折からの ビートルズ旋風の中で時代遅れとみなされるようになったビーチ・ボーイズは、グループとしての まともな活動さえ立ち行かなくなりつつあった。マンソンが、デニスを糸口にかれらの中枢に 入り込んでいったのは、そんな最中での出来事だった。そのすべてが、翌年に幕を切って落とされる、 マンソンとファミリーをめぐる陰惨極まりない「地獄と髑髏(ヘルター・スケルター)」の 血の兆しでもあったのだ。 》 398頁

《 マッカートニーが、長く鍵を掛けられたこの呪われた楽曲を10万の観衆の前で披露し、公式の 映像記録として発表したのが、旧ソ連赤の広場でのライヴ(モスクワ、2003年)であったことは、 実に興味深い。 》 383頁

 上記は以下へ続く。

《 「ヘルター・スケルター」は、1969年に突如として血塗られた惨劇のサウンド・トラックと なってから34年あまりを経て、今度はまったく異なる共産主義の赤でかつて血塗られた異郷の広場を 舞台に、その赤を塗り替えるかのように起こり、ついにはソ連をも消し去った資本主義の革命が 起きた現場に立ち会うことで初めて、その汚れた血の烙印を洗い落とすことができたのだろう。 》  383頁

 このくだりで連想したのが、造形作家白砂勝敏氏の作品『塗り替えられた歴史』。 昨年秋の渋谷芸術祭入選作だ。
 http://ameblo.jp/steampunk-powerstone-art/page-2.html

《 こうして1995年に起こったオウム真理教事件は、もしかすると、かたちを変えて戦後の 日本を舞台に反復された、マンソンとファミリーによるもうひとつの「血の惨劇(ヘルター・ スケルター)」ではなかっただろうか。 》 385頁

 「第10章 地獄と髑髏 ヘルター・スケルター(中編)」を読んだ。足立正生赤瀬川原平中平卓馬らが登場。当時の記憶を辿りながら読んだ。「写生」に反応。秋山祐徳太子、アンリ菅野と 一緒にいった写生旅行の三人展が銀座の画廊であった。

 「第11章 地獄と髑髏 ヘルター・スケルター(後編)」を読んだ。この章では「黒人のブルース」、 「悪魔との契約から生まれる音楽」(ロバート・ジョンソンのこと)、「ジャズの誕生と公民権運動」と、 ワクワクする項目が並ぶ。

《 この意味でフリー・ジャズは、ビバップが西洋のモダニズムにあたるような意味では「前衛( アヴァンギャルド)」ではない。むしろ、フリー・ジャズこそが真の意味での反近代(アンチモダン) への数少ない手掛かりだったのだ。が、結局フリージャズは、ある種の様式(モード)化を経て 後近代(ポストモダン)となるほかなかった。それはフリージャズがブルースという出自を見失った こととも深い関係にある。ブルースとはなによりもまず西洋文明への呪いであり、癒やしであり、 さらに言えばそこからの治癒を志向していた。このことは「後美術(アート)」が後近代(ポスト モダン)とならないためにも、きわめて重要な先例となる。 》 469頁

 朝、源兵衛川中流のほころびはじめた桜の下の石垣に繁茂するヒメツルソバを抜く。一時間あまりで 土のう袋四袋に詰める。暑くなったのできょうはこれまで。 あと六袋くらいで終わるかな。 それにしても人がよく歩く。地元民ではなく旅行者が多い。

 午後、ブックオフ長泉店へ。イタロ・カルヴィーノ『宿命の交わる城』河出文庫2004年初版帯付、 オールコット『若草物語河出書房新社1994年初版、計216円。なんか曇ってきたなあと思った午後 三時過ぎ、冷えた風、にわか雨そして雷鳴。