「靖/ひさし」 

 毎日新聞17日(日)の「今週の本棚」を切り取り、読んだ。又吉直樹『火花』への 大竹文雄の評から。

《 優れた漫才を追い求め、極貧の中、毎日練習を続ける。芸人の中で高く評価されることと、 観客に評価されることの違いに悩む。努力だけではなく、才能や運に大きく左右される。 》

 玄人受けと一般受け。安藤信哉の絵は玄人受けの絵。北一明の焼きものも玄人受け。 玄人受けの作品は、一度は忘れられても世代を超えて再評価される。一般受けの作品は、 世代が変われば忘れられ消えてゆく。
 紙面の下段には岩波書店の広告。『井上ひさし短編中編小説集成』全12巻。井上つながりで 井上靖を連想。長泉町井上靖文学館も沼津市芹沢光治良記念館も、スルガ銀行が資金を出した。 話が逸れた。井上ひさし井上靖。どちらも人気作家だった。
 丸谷才一鹿島茂三浦雅士『文学全集を立ちあげる』文春文庫2010年初版では井上靖について。

《 三浦 申し訳ないけど、僕はよくわからない。
  鹿島 井上靖は評価すべき点があると思いますよ。というのは、自我というものを出さないで 小説を書いて、しかも通俗小説に流れないギリギリのところで留める。これは、小説家としては かなり巧いという感じがします。 》

《 鹿島 常識人ですよね。だから、物語作家としてものすごいかというと、そこまで行って いないんだよな。
  三浦 今回ははずしてもいいんじゃないかと思いますよ。 》 296-297頁

《 丸谷 平野謙が昭和初年の日本文学を私小説プロレタリア文学、芸術派の三派鼎立と言った。 それで意外なことに、この図式は今も有効性を失わなくて、私小説的作家とプロレタリア文学的作家と モダニズム文学的作家というふうになっていると思う。
   そのうち、モダニズムの代表が村上春樹プロレタリア文学の代表が井上ひさし、そして 私小説の代表が大江健三郎、という図式が成立する。 》 309-310頁

 井上靖は後世も読み継がれるだろうか。上記の本では芹沢光治良は名前さえ挙がらなかった。 二人は一般受けする作家だった。ある人は芹沢光治良は日本より海外で有名、と言っていた。 確証は、と問うことは差し控えた。北一明は海外のほうが名高いことは、私が証人。棺を蔽って 評価は定まる。安藤信哉も北一明も卓越した芸術家だったと、私は確信している。その検証法は 簡単、別の作家の作品と並べてみることだ。

 美術の話題になると、これから何が騰がりますか、とよく訊かれる。まあ、油彩画日本画は 騰がらないでしょう、と答えている。これからを生きる若い人の好みとは違うから。
 これから騰がるかはわからない(当然)が、商業美術の作品が重きを増してくるとは思う。 ポスターやチラシだが、その役目は人の目を惹く、その気にさせる、記憶に残す、だ。目にした人、 手にした人に行動を惹起させるように仕向けなければならない。特にチラシは只、無料。ロハで 入手したものが人気を呼びお金に化ける。これぞ錬金術。山へ分け入って鉱物資源を探す山師とは えらいちがい。都市鉱山だ。私が東京にいたら繁華街をを徘徊して紙モノを漁っていただろう。

 1970年前後、私は東京で学生生活を送っていたが、新左翼の活動家から手渡されたアジビラを、 一次資料として大事だろうと保管している。多くが藁半紙にガリ版刷り。1969年10月10日にもらった 共産主義者同盟赤軍派のビラは活字印刷。資金があったんだねえ。電柱などに貼られた新左翼の 集会を呼びかけるポスターは、夜静まり返った時にひっそりと剥がしてきた。アブナイアブナイ。

 当時他に集めていたものは、水木しげるの貸本漫画。嗅覚を頼りに潰れかけた貸本屋を探して まわった。三島、池袋、甲府、倉敷、三次など、旅の目的の一つがこれ。家族からはこんな 汚いものを、とあきれられた。それから四十年。大化けした。元気なうちに予想が当たって ヨカッタ。今から四十年後なんて生きちゃあいないわ。ま、ご先祖様がいいものを遺してくれた、 と喜ばれるのもいいかな。逆だったらやだな。でも紙モノは処分が楽。

 美術展のチラシも捨てがたいものがある。2002年の天野可淡展(マリアクローチェ)、2003年の ベルギーの画家レオン・スピリアールト展(ブリヂストン美術館)などは、チラシから会場の 素晴らしい雰囲気を思い出す。

 芹沢光治良記念館で展示した子どもたちの作品の撤収作業をお手伝い。昼前に終了。帰りがけに ブックオフ長泉店へ寄る。N・メイヤー『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』扶桑社 ミステリー1988年初版、ピエール・ルメートル『その女アレックス』文春文庫2014年6刷、計216円。

 ネットの見聞。

《 「世界が、先におどろいた。春画 Shunga 」 》 永青文庫
 http://www.eiseibunko.com/shunga/index.html

 春画にはさほど興味がないが、現代の官能画展をどこかでやらないかなあ。このままでは 春画同様、海外へ流出してまう。

《 「安倍総理 ポツダム宣言」で検索すれば、日本の大手マスコミがほとんどこの件に 触れていないことがわかる。政権批判自粛なのか、アンテナが鈍感なのかは知らないが、 これがマスメディアってものの実情なんだな。 》

 今朝になって朝日新聞がやっと報道。

《 ポツダム宣言「本当に読んでないようだ」 志位氏が皮肉 》 朝日新聞デジタル
 http://www.asahi.com/articles/ASH5P55GFH5PUTFK00G.html

《 メモ【月刊誌「Voice」2005年7月号の対談で安倍晋三は「ポツダム宣言というのは、 米国が原子爆弾を二発も落として日本に大変な惨状を与えた後『どうだ』とばかりにたたきつけたものだ」 と語っていた】ポツダム宣言は1945年7月26日に発表されているので安倍晋三の認識は間違い。 》  徳永みちお
 https://twitter.com/tokunagamichio

《 日に日に明らかになるのは、安倍政権は首相をはじめとして、大日本帝国と 精神的につながっている人々が担っているということである。実に気色悪いことだが、 歴史改ざん主義も改憲への情熱も、日の丸・君が代の強制も、靖国参拝も、 すべて大日本帝国との精神的継続性から発している。 》 想田和弘
 https://twitter.com/KazuhiroSoda

《 戦争と電力
  いつの時代も、戦争と電力は切っても切れない関係。一般産業や生活消費量以上の 充分な電力がなければ、戦争はできません。逆に、敵国から見れば原発へのミサイル発射は 一番簡単な攻撃手段になります。 》 清水 潔
 https://twitter.com/NOSUKE0607

 ネットの拾いもの。

《 今、日本で一番信用できない職業が総理大臣だと断言できます。 》