『人魚を見た人』

 洲之内徹『人魚を見た人』新潮社1994年5刷、前半を読んだ。田中岑(たかし)の絵について。

《 色が光なのだ。色は空間そのものでもある。(中略)すると岑さんは、風光という言葉が 日本語にはあるだろう、あの光だよと言い、もうひとつ景色という言葉を持ち出して、 物の固有色を描くには油絵具に敵うものはないが、水墨の持つ物凄く広い色空間、色世界、 あれを油絵具でやれないものかと自分は思うのだ、とも言った。 》 31頁

 セザンヌも晩年、そんなことを探求していた気がする。物の存在感を描くことから色空間へ。 そして入江光太郎の絵。

《 それにしても、この人の、この自虐と自己否定の衝動は何なのであろう。あの堀川の絵巻にしても、 風景はひん曲げられ、はげしくデフォルメされているが、造形的な意図だけからとは思えない。(中略) この人はあの戦争のあと、戦後合理主義などで簡単に立直ることはできなかったのだ。(中略) この人は一人の修羅なのだ、と画帖をめくりながら私は思った。 》 58頁

 北一明と同様な人がいた。そして渡辺博の絵。

《 厚床には九月頃行って、十一月頃までいた。この辺は日本の東の端で、夜はピンク色の大きな月が出た。  》 96頁

 パソコン右の壁上方の木葉井悦子さんの絵『どんづき』を見上げる。吉祥寺のトムズボックスでの個展で 購入。展示壁の左下の隅のこれがいいと言ったら、売りたくなかったから隅に置いた、と。やっぱりいい。
 http://web.thn.jp/kbi/kibai.htm

《 批評や鑑賞のために絵があるのではない。絵があって、言う言葉もなく見入っているときに絵は絵なのだ。  》 166頁

 午後、友だちの車に同乗して某美術館へ行った。中高年の人たちが庭園に群れている。咲き誇るクレマチスと 薔薇を見に来た人たちのようだ。展示室は静か。常設展示は未見の作品が散見されたが、見慣れた作品のほうが ずっと良く見えた。以前の方が見応えがあった。友だちは、照明の仕方が良くない、と。そうかもしれない。 企画展示室のはかなげな作品は、はかなげだけの印象。同じ作家の絵画もなあ、肩透かしだねえ、とうなずきあう。 室内の雰囲気はいいのに。責任者でも代わったのだろうか。併設のレストランもコックが代わったせいか 味が好みではなくなった。で、今回は飲み物を注文。それもまた……。招待券があってよかった。

 今日泊亜蘭翻訳怪奇コレクション『幽霊船』盛林堂ミステリアス文庫2015年6月6日初版発行が届く。 1200円。「きょうどまり・あらん」と読む。

 ネットの見聞。

《 苦労自慢できるほど苦労してないから恥ずかしいけど、某月刊誌に5年間欠かさず投稿し続けた頃、 どんだけ酷評されたことか。 》 林由紀子
 https://twitter.com/PsycheYukiko

 その雑誌『MOE』のイラスト・コンクールで彼女の絵に注目、編集部気付で励ましの手紙を出した。 あれから四半世紀。

《 これまで人間が長年かけてつくりあげてきた文明は、結局、金儲けのための文明でしかないようです。 ……それをふり捨てて、もっと人間らしい、人間の魂の絆を大切にする倫理を立て直さなければ、 いまの文明の勢いを止めることはできません。……とくに詩人や文学者に責任があると思います。 この物質至上主義の世の中で、おめおめと自分の名声を保つために文学をやるのではなく、 もっと人間のために、ひとりの人間の気持ちに立ち返らなければなりません。 》 石牟礼道子
 http://www.fujiwara-shoten.co.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=1447

《 不正アクセスにより、百二十五万人もの年金加入者の情報が流出した。日本年金機構が流出を把握するまでの 二十日間、対策は講じられず、成り済ましによる年金不正受給などの可能性もある。 》 東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015060202000128.html

《 メールに付けた添付ファイル一つで国の根幹情報持ってかれるとかどうなってんのよ(呆) こんなんでマイナンバー制度なんか導入したら、持ってけ泥棒状態だな(苦笑) 》 フジヤマガイチ
 https://twitter.com/gaitifujiyama

 ネットの拾いもの。

《 「長年国会を見ているが、首相が(ヤジを)口にするなど聞いたことがない。国会で法案審議を お願いする立場で『早く質問しろよ』などと言うのは極めて非常識だ」。名案がある。辞職してはいかがか。  》

《 「( )は国権の最高機関である」という憲法条文をクイズに出したら、首相はたぶん迷わず 「内閣」と書くんじゃないでしょうか。いや、ほんとに。 》

 毎日新聞五月二四日「今週の本棚」、武田砂鉄『紋切型社会』朝日出版社への池澤夏樹の評。

《 その隙に乗じて安倍晋三的な言説が国を戦争状態に誘い込む。「フクシマはアンダーコントロール」 と彼がブラジルで言った時にはシンゾーが止まるかと思った。しかしその後も晋三の快進撃は止まらない。 むかし少女たちはずうずうしい人のことを「心臓ね」と言ったものだが。 》

 その隣には平山周吉『戦争画リターンズ』芸術新聞社への川本三郎の評。

《 アッツ島は実は、貴重な植物に恵まれた「花々の島」だった。だから藤田嗣治は兵士の死体のそばに 小さな花々を描き添えた──。 》

 写真家杉山吉良の『北限の花アッツ島再訪』文化出版局1979年を思い出す。知人女性に貸したきり。