『人魚を見た人』つづき

 一日雨。洲之内徹『人魚を見た人』新潮社1994年5刷を読了。

《 先程からの引用の続きだが、松本さんは「今年の十月のある日、都の美術館で開催中の 《日本銅版画史展》を見に行った。先に展覧会を見た知人から、司馬江漢の『中洲夕涼図』 があると教えられたからである」 》 200-201頁

 話は佐藤春夫『美しき町』へつながるのだが、このくだりを読んでその短篇の情景が輪郭を現した。
 一九八二年十月一日から十一月二八日までの展覧会へ私も行った。図録と半券がある。 この展覧会で深澤幸雄を知り、後の収集になった。出品六点どれもいいが、『凍れる歩廊 (ベーリング海峡)』一九七八年は、私のお宝の一つ。
 http://web.thn.jp/kbi/fuka.htm

 野見山暁治の絵について。

《 芸術資料館でデッサンを見て、回顧展で油絵を見てよく分ったが、野見山さんは、 対象から生まれる最初のイメージを画面に描き、すぐ、また、そのある部分を塗り潰し、押え、 描き起こししながら、最終的なフォルムに近付いて行く。画面が刻々と変化し、推移するが、 考えてみれば、動き続けているのは野見山さんのイメージの方なのだ。 》 211頁

 安藤信哉の絵を思う。安藤信哉は、描き始めるまではえらく時間がかかるが、描き出すと 早い、と遺族の方は言っていた。だから描線に迷いなどの入る隙がない。一見弱そうだが、 よく見ればそれがピタリと決まっている。ブレる、また逆の硬直ではなく、描線が弾性を 有している。描線が面を従えている。なんという闊達な線だろう。

《 必要とあれば、といまさっき書いたが、それではセザンヌは何を必要としているのか。 私の勝手な解釈だが、セザンヌは、ただひたすら秩序を求めているのだ。そのためには、 色が喋り過ぎれば色を黙らせ、質感が喋り過ぎれば質感を黙らせる。そして、物は その秩序に従うことによって、らしくなくても、らしい以上に存在を持つ。 》 226

 セザンヌの絵からは悪戦苦闘の痕跡をひしひしと感じる。それは西欧の桎梏との戦い、 という気がする。

《 戦争は恐ろしい。戦争とは何かと訊かれてひと言で答えなければならないとすれば、 私自身の経験から、私は「恐怖」と答えていいと思っている。 》 234頁

《 戦争絵画の中では、私はやはり藤田嗣治を随一だと思う。 》 266頁

《 それはそれとして、絵についてのこういう感動のし方にも、絵かきのこういう情熱にも、 この頃私は懐疑的になっている。彼等に嘘はない。それに、だいじなことだ。絵にとって 最も大切なのは感動の真摯さということである。ただ、絵というものはこれだけのものだろうか。 これだけで良い絵描きだといえるだろうか。情熱的であるのは結構だが、情熱すなわち芸術だと いっているような、絵を描く方にも絵を見る方にもある、こういう息を弾ませた勘違いからは、 通俗化された情熱といったようなものの方が浮き上ってきて、私は苛々してくるのだ。 》 280頁

 以上、同感。

 ネットの見聞。

《 年金機構がサイバー攻撃にあい、基礎年金番号と氏名など125万件の情報が流出。 利便性を高めると称して、これに税金、病歴、資産など多数の情報を入れたら、どうなるか。 マイナンバーは裸のナンバー。とても危険です。 》 金子勝
 https://twitter.com/masaru_kaneko

 ネットの拾いもの。

《 公務員だった老人がボケやすいってのはホント?
  ボケてないと務まらんわい。 》

《 兄「ミネラルウォーターって軍艦の名前っぽくね?」
  弟「例えば?」
  兄「仏海軍 巡洋艦ヴォルヴィック」
  弟「おお」
  兄「米海軍 空母クリスタル・ガイザー」
  弟「ヤベェ」
  兄「だろ? 英海軍 駆逐艦コントレックス、独フリゲートゲロルシュタイナー海上自衛隊 護衛艦いろはす」 》