『遙かなノートル・ダム』

 昨日の山田稔『コーマルタン界隈』でパリにどっぷり浸かったので、パリを生涯の地と定め、 パリで1976年に65歳で亡くなった森有正の『遙かなノートル・ダム』角川文庫1983年初版を開いた。 元版は1967年に筑摩書房から出版。冒頭の力作評論「霧の朝」から。

《 ところで話を元に戻すと、変化と流動とが自分の内外で激しかったこの十五年の間に、 僕のいろいろ学んだことの一つは、経験というものの重みであった。さらに立ち入って言うと 感覚から直接生れて来る経験の、自分にとっての置き換え難い重み、ということである。 》 13頁

《 「努力」と「忍耐」と何げなく書いたが、この二つの日常茶飯事的な言葉がすでにどれほど 深い定義を、すなわち経験を、要求していることであろうか。 》 18頁

《 正しい、そして深い経験から出て来る言葉は、形容するのがむつかしい一種の重みをもっている。 》 25頁

《 体験主義は一種の安易な主観主義に堕しやすいものであり、またそれに止まる場合がほとんどつねである。 》 26頁

《 しかし、いわゆる体験と異なる本当の経験は正しい理想の上に立つものである。 》 28頁

《 経験は唯一つしかない。だからそこに個人というものが確認される。あるいはむしろ、経験の全体が 一人の人、その一つの生涯を定義するのである。また自由ということばも経験の深まりということによって 定義されるものである。 》 32頁

《 自由は自由主義、政治、経済、文化上の一つの主張としての自由主義とは何の関係もないものである。 平和が平和憲法の結果ではなく、その根源でなければならないように。 》 32頁

 彼の生涯のテーマ、経験への論及以外にも興味深いことが論じられている。その一つ、美について。

《 そこには一つの共通した事態があった。限りなく牽かれながら、その牽かれる根拠が深くかくされている、 というその事態であった。その瞬間に僕は、自分なりに、美というものの一つの定義に到達したことを理解した。 それは、僕にとって、人間の根源的な姿の一つであった。それはそれで一つの理解ではあろうが、 僕にとって一番大切だったのは、そういう数限りのない作品が、一つ一つ美の定義そのものを構成しているのだ、 という驚くべき事態であった。換言すれば、一つ一つの作品が、「美」という人間が古来伝承してきた「ことば」 に対する究極の定義を構成しているという事実だった。作品はもうこれ以上説明する余地のないぎりぎりの姿で そこに立っているだけだ。僕がそれなりに限りなく牽かれるという現実がある以上、僕が作品を把握するのではなく、 作品の方が僕を把握しているのだ。事態がそうである以上、その根拠を把握するという可能性はまったくない ことになる。古代の人はこういう事態に美、イデア、フォルムなどの名を命じたに相違ない。 》 15頁

 「霧の朝」の冒頭。

《 数年来、フランスでは気候変動がたびたび言われる。 》

 「霧の朝」の発表1966年。50年前から気候変動か。

 昨日、内野まゆみさんから葉書大の新作を見せてもらった。また書くのか、と思われるのがいやで、 昨日はふれなかった。葉書大なのにすごく大きく感じられる。画格が大きいということだ。実物を見ると、 細かい箇所に入念な技を見出す。美は細部に宿る。その細部の大胆な描線が、扇の要となっている。 デザインにして絵画。絵画でありデザインでもある。縦の絵を横にすると、そこには葛飾北斎の 『神奈川沖浪裏』の構図が浮かぶ。内野さんは考えもしなかった、と驚く。彼女の書の鍛錬とデザインの 訓練と描写の修練のかけがえのない経験が、見事に結実した作品だ。虚心にして無心な姿勢の賜物。 類を見ない作品だ。先月26日の「明・暗、宙・空、虚・無」の実例と言える……かも。

 ブックオフ三島徳倉店へ自転車で行く。文庫本を六冊。土屋隆夫『しつこい自殺者』廣済堂文庫1986年初版、 西村京太郎『ミステリー列車が消えた』新潮文庫2004年52刷、林芙美子『貧乏こんちくしょう』廣済堂文庫 2015年初版、平松洋子おもたせ暦』新潮文庫2010年初版、三木笙子『世界記憶コンクール』創元推理文庫 2012年初版、矢崎存美『ぶたぶたのお医者さん』光文社文庫2014年初版、計648円。大人買いな気分。

 ネットの見聞。

《 原発政策でも、原発に依存しない社会→世界一の安全基準→重要なベースロード電源→原発依存度 20〜22%→原発再稼働です。アベは「公約」を、選挙民を騙すくらいにしか考えていない。 次々と嘘を上塗りしていけば、前の「公約」の検証もされなくなる。メディアはアベの嘘をたれ流し、 検証しない。 》 金子勝
 https://twitter.com/masaru_kaneko

 ネットの拾いもの。

《 オバマプーチン習近平が、満面笑みをたたえて晋三に駆け寄って手を握る、なんて光景が想像できますか。 まあ、なんと滑稽でみっともない宰相だろう。 》

《 海老名市立図書館で,桐野夏生の『東京島』が本当に ジャンル:旅行/国内旅行/関東/東京 に分類されている www。これ読んでどこに旅行に行けばいいんだよwww 》

《 海老名のTSUTAYA図書館でCCCがやった分類が明らかにおかしいと話題なので軽く検索してみた。 有川浩なんて有名な人の作品でもか!阪急電車は小説(913.6)だよ!何で分類が『鉄道(恐らく680台)』になるのよwww  》

《 海老名図書館の分類のやついろいろ流れてくるけど八甲田山死の彷徨が東北旅行に分類されてるのは流石にツボった。 》

《 海老名市立図書館(TSUTAYA図書館二件目)で「旧約聖書出エジプト記」が旅行本ジャンルの扱いになってる…。 あれはモーセによる旅行記…なのか…? 》