『想像ラジオ』

 いとうせいこう『想像ラジオ』河出書房新社2013年8刷を読んだ。東日本大震災の死者たちがラジオの DJアークを中心に呼び交わす。

《 AM。アンプリチュード・モジュレーションの略。FMはフリーケンシー・モジュレーション。 送ってる信号波の変調方式の違いなんですけども、そういう意味で言ったらこの放送はイマジネーティヴ 変調。IMとでも名付けて特許取った方が利口かもしれません。 》 87頁「第三章」

《 「魂魄(こんぱく)この世にとどまりて…という言葉が私の脳裏に去来しております。あなたの奥方も お好きな様子の、古典芸能によく出てくる…言葉です。思い残すことがあって、魂魄があの世に向かえない。 アークさん、我々は皆、この状態です。あなたもそうだ。全国で昨日、あるいは今日そうなった者たちが このラジオを聴いている」 》 99頁「第三章」

 そして死者と生者の想像対話。

《 「そうそう、ふたつでひとつ。だから生きている僕は亡くなった君のことをしじゅう思いながら 人生を送っていくし、亡くなっている君は生きている僕からの呼びかけをもとに存在して、僕を通して考える。 そして一緒に未来を作る。死者を抱きしめるどころか、死者と生者が抱きしめあっていくんだ。さて、 僕は狂っているのかな? 泣き疲れて絶望して、こんな結論にたどりついていて」 》 138頁「第四章」

《 いや、もうすでに浮遊は始まっているんじゃないか。風が背中を通るのがわかる。僕は気球のように 熱くふくらんで、今や風の影響を受けている。 》 188頁「第五章」

《 「想像せよ」
  「鳥よ」
  「悲しみの中継地点よ」 》 189頁「第五章」

《 本当にさようなら、みんな。 》 192頁「第五章」

 軽快な語り口で進む、切々とした物語。深く胸を打つ。傑作だろう。

 『 Don't Follow the Wind 』、「風分子 - Invisible Shape-」につづいて、ここでも風。風邪気味だった 女友だちは、電話の声から快復したようだ。

 立冬。雨。源兵衛川月例清掃の集合場所へ行く。誰もいない。確認して帰宅。

 作品を購入し、K美術館を建てて、ひとりぼっちで顕彰していた味戸ケイコさんと北一明。昨日書いたが、 故北一明は7月31日の東京新聞で大きく報道。味戸ケイコさんは8月25日刊行、椹木野衣・編『日本美術全集  第19巻』小学館に絵が選出、掲載。長く続いた孤立無援な顕彰作業だったが、間違っていなかった…… ようだ。深い感慨に沈む。静かな雨だ。
 http://web.thn.jp/kbi/

 ネットの見聞

《 1965年の今日、深夜番組『11PM』(日本テレビ系列)の放送が開始されました。90年までの24年半、 月〜金で放送された同番組の偉大さは、あたらめて考えるとくらくらします。 》 週刊大衆
 https://twitter.com/Weekly_Taishu

 俳句の故加藤郁乎がこの番組に関わっていた気がする。語り女・故松田晴世がこの番組に出演後、 一緒だったストリッパーのプロ意識(出演前に十分な柔軟体操)に感心した、と彼女から聞いた。

《 リゾートに泊まり沖縄県民いじめ 警視庁機動隊の歪んだ正義 》 日刊ゲンダイ
 http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/168766

《 【新・琉球処分】 沖縄の学生「東京の機動隊は冷たい目をしている」 》 田中龍作ジャーナル
 http://tanakaryusaku.jp/2015/11/00012349

《 「政治への意志表示はデモではなく選挙でやりなさい」等と、デモ参加者の増大を阻止しようと する人がいるが、そんな人は今の沖縄の状況をどう説明するのだろう。沖縄県民は四度の選挙で意志表示した。 政権は「衆院選勝利で安保法制は国民の支持を得た」と強弁しながら、都合の悪い選挙結果は無視する。 》  山崎 雅弘
 https://twitter.com/mas__yamazaki

 ネットの拾いもの。

《 地下を失踪する電車の音が漏れ聞こえる通気口 》

 新感覚派の文章みたいだ。