『偽花(にせばな)』

 太田忠司『偽花 探偵・藤森涼子の事件簿』実業之日本社文庫2015年初版を読んだ。「石楠花(しゃくなげ) の詞(ことば)」「金木犀の徴(きざし)」「夾竹桃の焔(ほのお)」の三篇。凝った題名だ。 そのままテレビドラマになる内容。しかし、巷間に流れる二時間ドラマのような回りくどい告白、 説明はない。探偵・藤森涼子の生き方そのままに簡潔な展開と着地。地に足の着いたリアル・ ミステリだ。いい読後感。好みのシリーズだ。藤森涼子は未婚だけど、篠原涼子をやっぱり連想。 大矢博子の解説から。

《 ニ○一四年十一月二十七日、イギリスのミステリ作家P・D・ジェイムズが九十四歳でこの世を 去った。/ 日本にも多くのファンを持つジェイムズには、ふたりの人気シリーズキャラクターがいる。 ひとりは、一九六○年代から半世紀に及ぶ長いスパンで著者の看板シリーズとなったロンドン警視庁の アダム・ダルグリッシュ。そしてもうひとりは、一九七二年に誕生した女性私立探偵コーデリア・グレイだ。  》

《 コーデリアの初登場作『女には向かない職業』(ハヤカワ・ミステリ文庫)はまたたく間に 読者の支持を得、訳出から四十年以上経った現在も版を重ねている。 》

《 ジェイムズの訃報が流れた日、本書の著者太田忠司さんはツイッターでこんな発言をしている。

  「藤森涼子を書くとき念頭にあったのは、コーデリア・グレイでした。年齢を重ねた彼女の活躍も 見たかった。」 》

 『女には向かない職業』ハヤカワ文庫版の瀬戸川猛資の解説から。

《 しかし、「女私立探偵物」というレッテルで割り切れるほど単純な作品でもないのだ。 複雑な企みと周到な仕掛けを内に秘めた稀有なミステリなのである。 》

《 本書『女には向かない職業』は、こうした探偵物とはまったく異質の構造を持ったミステリである。 いや、厳密には女探偵物とはいえないのだ。物語を追ってみよう。 》

《 ここが本書の最大のヤマ場であり、読み所である。ヒーローのダルグリッシュの登場によって、 今までヒーロー役を演じていたコーデリアが、可憐なヒロインへと変貌するのだ。ドラマ全体が 大転回を見せるわけで、一種の心理的ドンデン返しといってもいい。訳者の故小泉喜美子氏は、 この下りを訳しながら涙がにじんできたそうだが、確かにこういう感動を呼び起こすミステリは めったにない。ミステリにおける女性の位置をきわめて明晰に、きわめてミステリ的傾向をもって 描き出した、という感動なのである。 》

 ミステリ作家にして翻訳家、故小泉喜美子さんは喜んでいるだろうなあ。七日が没後三十年。 彼女からは何冊か本を恵まれたが、銀座でのパーティ会場入口での一期一会だった。会場を出た 小泉さんは私に挨拶をして、青木雨彦と街中へ消えていった。没後、ご母堂から明石町の居室へ招かれ、 形見分けの本をいただいた。窪田般彌『幻想の岸辺』河出書房新社1972年初版、森茉莉『父の帽子』 筑摩書房1979年5刷、ハヤカワ・ポケット・ミステリからクレイグ・ライス『わが王国は霊柩車』他五冊。

 思い立って熱帯雨林で小泉さんの本を検索。『幻想マーマレード』 Sun novels1981年 が26,991円から。 思わずウッソーッ。以前は一万円そこそこだったが。小泉さんから手紙付きで恵まれたその本を開く。 巻末の光瀬龍との対談から。

《 光瀬 翻訳をなさるときは凝るほうですか?
  小泉 まあ、凝りますね。ただし、翻訳をするときには、”原作者を大切に”というのがモットー ですから、翻訳者がしゃしゃり出るようなことはすまい、と心がけてます。翻訳者はあくまで陰の黒子 (くろこ)だから、”原作者に忠実であれ”なんです。”原文に忠実”ではないんです。原作者はここで 何を言いたいのだろう、とということを考え考えやります。ときには原文を無視しても、原作者が いちばん言いたいことを伝える、ということですね。ちょっと誤解されるかもしれませんが、必ずしも 原文に忠実でなくてもいいんです。 》

 翻訳に関する発言を写したのは、あるブログで『女には向かない職業』原文と小泉さんの翻訳を対照して、 違っている、と論難する記述を目にしたから。某政治家を真似して、それは問題には当たらない。

 昼前、昨日取り残したヒメツルソバを駆除。持参した椅子に乗って高い石垣に背伸びしていたら、 近くの雷井戸を見てくれている年配の知人が脚立があるから使って、と。ありがたい。土のう袋一袋。 一汗かく。冷や汗でなくてよかった。

 ネットの見聞。

《 人名はすべてルビを残した。「この人有名人だし、読めない人はいないでしょ」 と思うケースは多々あったが、編集者によれば「今は誰でも読めても、たとえば30年後にその人は 世間から忘れられているかもしれない。そうすると読めない人も出てくる」。‥‥‥ そこまでは思いつかなかった。 》 大野左記子
 http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20151110/p1#20151110f1

《 カナダのトルドー新内閣の顔ぶれが男女半々というニュースは伝わっているけど、四肢麻痺の 大臣や視覚障害の大臣、ムスリムの難民やシーク教徒、イヌイットやカカカワクといった先住民族、 オープンリー・ゲイの大臣もいることは日本では報じられているのだろうか? 》 北丸雄二
 https://twitter.com/quitamarco

《 16年経ってみて、世界は変わった。EUがあそこまで結束するとは思ってなかったし、 全米で同性婚が合法化されるとは夢にも思わなかったし、世界でこんなに女性のリーダーが 生まれるとも思っていなかった。しかし、一番予想外だったのは、日本がこれほど世界の変化に 取り残されたということだ。 》 Kumiko
 https://twitter.com/Kumiko_meru

《 国会の閉会中審査では、「下着泥棒」や「違法支出」が疑われる閣僚への追究がされているようだ。 どうでも良いとは言わないが、世界最大の核災害であるフクイチが最優先だろう。追究する側もされる側も、 毎月三桁の人間が5mSv超えの被曝をしている事実は、優先順位が低いのだろうか。 》 春橋哲史
 https://twitter.com/haruhasiSF

《 NHKはこうして「反知性主義」に乗っ取られた! 前経営委員長代行が決意の告発 》 現代ビジネス
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46256

《 椹木野衣先生インタビュー(2) 》 弐代目・青い日記帳
 http://nichibi.webshogakukan.com/bluediary/2015/11/post-10.html

 ネットの拾いもの。

《 品川駅で山手線乗ったら車掌が車内アナウンスで「いま私が酔っ払いにからまれているため発車が 遅れていまーす!」。こんなの初めて聞いたわ。なんかみょーに明るいトーンだったので、車内大爆笑。 こんな経験も初めてだわ。 》

《 やっと平成27年て覚えたのに、もうすぐ年末かい 》

《 心が鬼狭い。 》