『想像の共同体』

 ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』リブロポート1987年初版を読了。 実に読み応えのある著作で、世界史の少ない知識を総動員、えらく時間がかかった。想像の共同体とは。

《 定義することにしよう。国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体(イマジンド・ ポリティカル・コミュニティ)である──そしてそれは、本来的に限定され、かつ主権的なもの [最高の意思決定主体]として想像されると。 》 17頁 「I序」

 想像の政治共同体=国民国家ナショナリズムの歴史的な成立事情を、出版印刷の普及から起こす。蒙を啓かれた。

《 この新しい共同体の想像を可能にしたのは、生産システムと生産関係(資本主義)、コミュニケーション技術 (印刷・出版)、そして人間の言語的多様性という宿命性のあいだの、なかば偶然の、しかし、爆発的な相互作用であった。  》 79頁 「III 国民意識の起源」

《 出版によって結びつけられたこれらの読者同胞は、こうしてその世俗的で、特定で、可視的な不可視性において、 国民的なものと想像される共同体の胚を形成したのである。 》 81頁 「III 国民意識の起源」

《 出版時代以前には、想像の宗教共同体の現実性は、なににもまして、無数の、やむことのない旅に深く依存していた。  》 98頁「IV 旧帝国、新国民」

《 こうして、カラカスの新聞は、まったく自然に、また非政治的に、その特定の読者同胞の集団に、これらの船、 花嫁、司教、価格の属する想像の共同体を創造した。そしてもちろん、やがてはここに政治的要素が入り込むことになった。  107頁「IV 旧帝国、新国民」

《 別の言い方をすれば、人は誰とでも寝ることができるけれども、ある人々の言葉しか、読むことはできないのである。  》 133頁「V 古い言語、新しいモデル」

《 しかし、ひとたび権力を掌握すると、今日我々が明治藩閥と呼ぶ反逆者たちは、その軍事的能力がそのまま自動的に 政治的正当性を保証するものではないことに気が付いた。幕府廃止と天皇(「皇帝」)復辟はすみやかに行なわれたが、 夷狄を追い払うのはそう簡単にはいかなかった。 》 161頁「VI 公定ナショナリズム帝国主義

 じつに興味深い論及がなされている。

《 つぎに、藩閥政府の主たるモデルとなったのは、みずから国民へと帰化しつつあったヨーロッパの王朝だった。 》  165頁「VI 公定ナショナリズム帝国主義

 浩瀚な知識に基づく斬新な歴史形成モデルだ。歴史変動の内在的運動への深い洞察が、読者の視界を高みへ押し上げる。 名著だ。『定本』版も読みたくなった。明日へつづく。

 冬至。師走、クリスマス前という気がしない。寒くなく風もないので、ブックオフ函南店へ自転車で行く。文庫本を三冊。 西澤保彦『小説家 森奈津子の妖艶なる事件簿 両性具有迷宮』実業之日本社文庫2015年初版、結城昌治『真夜中の男』 光文社文庫2008年初版、マイケル・シェイボン『シャーロックホームズ最後の解決』新潮文庫2010年初版、計324円。

 ネットの見聞。

《 「どの段階で、誰がどのように選択を誤ったか」を過去に遡って検証し責任を明確にする文化が、 日本では著しく軽視されている。「歴史感覚」を磨く教育をしていないので、決まったこと、既に起きたことは 「仕方がない」と諦めて思考を終わらせてしまう。誰も責任を問われないので、同じ失敗を繰り返す。 》 山崎 雅弘
 https://twitter.com/mas__yamazaki

《 『戦前回帰』でも書いたが、国家神道の政治思想を共有する人間は、自らの政治目的を正当化する武器として 「日本の伝統」を持ち出すが、ほとんどは明治期に当時の国家体制の正統性を補強する素材としてアレンジされたものだった。 実際の伝統とは違う。 》 山崎 雅弘

 ネットの拾いもの。

《 人生で加湿器というものをつかったことがなかったので、水をいれないといけない、ということに思いいたらなかった 》

《 志を忘れる、と書いて「しわす」。 》