「正月明け」

 長泉店、函南店、三島徳倉店そしてきょう、沼津リコー通り店へ午後行く意欲が出ねえなあとぐずぐずしていたら、 友だちから三嶋大社参拝のお誘い。行くのは中止。臨機応変朝令暮改は必要也。物足りなく昼前長泉店へ自転車で。 長田弘『ねこに未来はない』角川文庫1993年17刷、松谷みよ子『ちいさいモモちゃん』講談社文庫2011年初版帯付、 計二割引172円。ま、いいか。

 松浦寿輝『明治の表象空間』新潮社を少し読む。

《 だが、ネーション・ステート樹立を喫緊の使命とする井上(毅=こわし)の「エタティズム」(国家主義)が いかに強靭なものであれ、他方で彼の高度な「啓蒙」的教養は、国家の存立を毀損しないかぎりでの思想や 信仰の「自由」という価値概念までをも捨て去ることを、彼に許さなかった国家による教育勅語の起草に当っての 彼の煩悶の根底には、このジレンマがあったのだ。天皇というペルソナ(仮面・登場人物)を中核にして仁義忠孝を 国民道徳化しようとしていた侍講元田永孚(ながさね)との間に生じた葛藤も、主にこれに由来する。 》 414頁 「命令──天皇(三)」

 ( )は私の注記。教育勅語への論及はじつに深く、一読では当然だが十分な理解は無理。とりあえずメモ。

《 「命令」性の削減に正確に比例して増大したこの親密さが、共感と同調を誘う。それこそまさに、教育勅語の 受容の現場で生起したことにほかならない。結局これは、文体論的にも制度的にもあからさまな強制力が 隠蔽されているだけに、情動的にはそれによってかえっていっそう強制力の強まった、隠微にして倒錯的な「命令」 の発語なのである。 》 423頁「命令──天皇(三)」

《 さらに、この代理=表象のメカニズムが「朕」自身に「反射」され、今上天皇を強力な権力主体として 再提示するに至るのだ。教育勅語のわずか三百十五字の本文中、「皇祖皇宗」という言葉が強調的に二度 書きつけられていること──中段の教訓部分の価値と正当性を基礎づけるためにそれを両側から挟むかたちに 置かれた前段と後段の両方に、それぞれ一度ずつ姿を見せていることは、意味のない反復ではあるまい。 》  431頁「無比──天皇(四)」

《 「国体」という護符の呪術的機能の核心は、「透明」に表象されたものが翻って正体の「不透明」な現前を 担保するという、二重化された表象機制によって担われているのではないか。 》 432頁「無比──天皇(四)」

《 ここで改めて浮かび上がってくるのは、教育勅語のメッセージの最重要部分は全三段のうちの前段と後段にあり、 内容の実質をなすかに見える徳目羅列の中段は、実は一種の「口実」でしかないという事実であろう。 》 435頁 「無比──天皇(四)」

《 肝心なのは、それらの羅列自体ではなく、前と後の両側からそれらに被せられたメタ水準の命題──すなわち、 それらはことごとく「皇祖皇宗」の建立した「深厚」なる始原の徳の上に基礎づけられることによって初めて 存立しうるものであり、その有効性も当為性もそこから発しているのだという命題の方なのである。普遍性を 特異性に読み替えるというこのトリックに教育勅語の核心はあり、その場合、普遍性の部分が凡庸であればあるほど、 それが特異性の顕現を逆にいよいよ際立たせることにもなろう。 》 435-436頁「無比──天皇(四)」

《 そのユートピア的夢想は、「知」の超越論的審級としての普遍性の試練に遭って試されることなく、 ただみずからが「無比」であることの優越性のみを根拠に、境界を越えてどこまでも伸び広がっていくことができると 信じている。 》 437頁「無比──天皇(四)」

《 「明治の表象空間」には、システムを裏切り、歴史的時間を無化し、システムの外部に投影された無=時間的 ユートピアのファンタスムで精神と身体を安らわせてくれる言説もまた、おびただしく産出され流通し人々の消費に 供されなければならなかったのである。その決定的ヴァージョンの一つがたとえば教育勅語である。 》 450頁 「快楽──無意識」

 ファンタスム=phantasm=空想の産物、幻想、幻覚。
 前半部を読了。明治の表象空間を縦横に分析し、明治の深層構造を闡明した、浩瀚にしてなんと小気味いい 著作だろう。後半部が楽しみだ。

 ネットの見聞。

《 学校ではなぜ「不合理」がまかり通るのか 「柔道事故」と「沖縄基地問題」の意外な共通点 》 東京経済ONLINE
 http://toyokeizai.net/articles/-/98630

《 仲代達矢の悪夢体験 小学生の女の子に焼夷弾が直撃 》 日刊スポーツ
 http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1587263.html

《 「活字離れ」論の文化史  》 林智彦
 http://www.slideshare.net/tomohikohayashi/ss-56614985

 ネットの拾いもの。

《 今年は申年か、モンキービジネスの時代かな。 》