「構造的な空白」

 朝、地元のラジオ局の知人女性からラジオ出演の要請。水木しげるの話を、ということだったが、 三島の隠れた面白い場所、事績を紹介したほうがいいのでは、と提案。その方向で検討することに。 午後、資料を少し持っていく。

 松浦寿輝『明治の表象空間』新潮社を少し読む。昨日につづき北村透谷について。

《 結局、何が何だかわからないとも言えるが、一つたしかなことは、内とも外とも一義的には定めがたい 謎めいた場所に絶えず「空白の升目」があり、それが『蓬莱曲』の全編を通じて透谷のエクリチュールを 駆動しているという点だ。それは、人がそれを探し求めるところに決まってなく、それがないところに決まって 発見されるといった、絶えず視線から逃れて他処へ飛び移りつづける特異な空白であり欠如なのである。それは、 作品が作品として機能するためには決して充填されてはならない構造的な空白なのである。 》 486頁「欠如── 北村透谷(三)」

《 空白を追い、空白をめざし、同時に空白から逃れるように進行してゆく透谷のエクリチュールの実践が、 単にその空白を充填することを目的としているわけではないという点、そしてその進行の運動によってのみ 主体は主体として生成しうるという点のみ確認しておけばそれで十分である。主体は「空白の升目」の移動に 「付き従う」。それは升目を支配する機能も統御する機能も持っていない。ひたすら升目に従属し、ひっきりなしに 跳躍しては別の位置へと移ってゆくその運動に、ただ同伴するだけである。 》 487頁「欠如──北村透谷(三)」

 味戸ケイコさんの初期の鉛筆・彩色画を連想。言葉を少し入れ替えればそのまま通用する。

《 ──なぜなら構造とはつねに動態的であり、動態的構造のみが構造の名に値するから── 》 489頁 「欠如──北村透谷(三)」

 一閃が走った。この一文が、私に難題を解く鍵を手渡した。長年もどかしく解けなかった謎が不意にぱらっと解け、 ずっと見つからなかった出口が突然、目の前に現れた気分。安藤信哉の後期・晩年の絵画。安藤信哉の絵画論を書いて 隔靴掻痒の残滓感が残った。「日本的『自在』の構造」の構造について論及不足を痛感しながらも、それ以上は 深めることができなかった。《 構造とはつねに動態的 》これなのだ。
 http://web.thn.jp/kbi/ando10.htm

《 それは、作品が作品として機能するためには決して充填されてはならない構造的な空白なのである。 》

 西洋画でいえば、セザンヌの晩年の水彩画か。セザンヌの「塗り残し」に関しては、まだ考えがまとまらない。 去年の九月二十六日のブログで「明・暗 宙・空 虚・無」という迷案を起草したが、やっぱり恥ずかしい。 でも、そんな下手な考えに拘泥していたから、上記の引用文に光明を見、勝手に読み替えることができた、と思う。

《 彼の「内部」はナルシシスティックな全能感の幸福(ユーフォリー)に浸されたユートピアではなく、 見られる通り熾烈な抗争と「いつはつべしとも知/らぬ長き恨」に満ちた戦場であり、そこから産み落とされた 彼のノマドエクリチュールは、近代日本の文学的自意識に画期的な切断をもたらした。 》 492頁「不可能── 北村透谷(四)」

 北一明の制作行為を連想。それに続く文。

《 日本の「近代詩」が『新体詩抄』(明治十五年)から始まるというのはまったくの誤りで、その真の起点は 『蓬莱曲』(同二十四年)に見出されるべきである。 》 492頁「不可能──北村透谷(四)」

 慧眼というか凄い視点だ。

《 真の問題は、口語散文の成立とともに立ち上がった「秩序」を自然なものと見なし、そのうちに安住して 「空白の升目」をせっせと埋めることに専心するか、それともその「秩序」を自明な環境として受け入れることを 拒み、言語の不透明な物質性が差し向けてくるしぶとい抵抗との徹底的な格闘に身を投じるか、この二者択一の 選択にある。 》 504頁「不可能──北村透谷(四)」

《 透谷、一葉、露伴、鏡花、そしてさらに時代を下れば言語の物質性の露出によって絶えず「風景」からも 「内面」からも大胆に逸脱しつづけた内田百ケンや吉田健一こそ「近代」のもっとも過敏な特異点に触れえた作家たち なのであり、彼らが自己の全存在を賭けて織り上げた限界的なテクストの群の傍らに置くとき、漱石のお説教臭い 通俗心理やら鴎外の華麗な文体見本帳やらは、所詮、知識人の慰戯の域を超えるものではない。 》 504頁 「不可能──北村透谷(四)」

 ここまで啖呵を切っていいんかい、だな。すごいわ。

 ネットの見聞。

《 「団塊団塊ジュニア、ゆとり」 3世代それぞれの人生の軌跡 》 舞田敏彦
 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/01/post-4324_1.php

《 また下水道用管渠施設の中で、唯一地上で目に触れることの出来る地下空間都市文明への入口が グラウンドマンホールです。 》 日本グラウンドマンホール工業会
 http://www.jgma.gr.jp/intro/index.htm

《 福島第一原発 廃液漏れで危険作業増 貯蔵容器で水素ガス発生 》 東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016010690070758.html

《 【クレヨン晋ちゃんへ】小言を言っても無駄かもしれないけれど、宿題は一つずつ 片付けてからにしようね。福島の復興なくして日本の再生なし、アベノミクス物価目標2%、 名目成長率3%以上、女性活躍社会、みんなまだだよ。1億総活躍社会?また飽きたの? クレヨンのいたずら書きじゃないんだから。 》 金子勝

《 今は移行期です。地殻変動的な移行期の混乱の中にある。 》 内田樹
 http://blog.tatsuru.com/2016/01/05_1639.php

 ネットの拾いもの。

《 「もちはお米を蒸してそれをひたすらハンマーで叩いて作るもの」 》

《 俳句とか短歌とかも文字数制限撤廃したらいいのに。 》