『1945 予定された敗戦』

 小代有希子『1945 予定された敗戦』人文書院2015年12月30日初版、前半を読んだ。

《 通説では、戦争終結に向かう日本の市民は「一億玉砕」を叫び、アメリカ軍が実際に上陸してきたら、 婦女子も含めて竹槍で敵を迎え撃つよう訓練を受けていた。しかし全国紙は、必勝をめざす勇ましい日本軍の 戦いぶりを繰り返すのと同じ紙面で、このように正確な国際情勢ニュースも同時に一般市民に伝えていたのだ。  》 20頁「序章 『ユーラシア太平洋戦争』と日本』」

《 ソ連との関係を軸に、日本が中国、アメリカと戦った戦争を俯瞰してみて初めて、日本の戦争というのは、 避けられない植民地帝国の興亡とその後生き残る術を確保する戦いだったことがわかる。 》 24-25頁 「序章 『ユーラシア太平洋戦争』と日本」

《 戦後日本は奇跡の復興を遂げた。だがもしそれが戦争末期の生き残り戦略と関係していたとしたら、 日本人はそれを恥じるべきか、誇るべきか。 》 25頁「序章 『ユーラシア太平洋戦争』と日本」

《 明治日本でユートピア社会の追求が始まったのは、政府が富国強兵政策を掲げると同時に民権運動の弾圧に 乗り出した頃だ。 》 32頁「第1章 アメリカより身近な隣国」

 昨日読了した松浦寿輝『明治の表象空間』新潮社2014年につながる。

《 ノモンハンでの軍事衝突の休戦からわずか一ヶ月後の一九三九年十月末に『報知新聞』に掲載された社説は、 日本とソ連の間に存在する「国家的建前」の違いよりも、隣国同士の共通利益を重視していくべきだ、と述べた。  》 38頁「第1章 アメリカより身近な隣国」

《 太平洋戦争が始まると、日本人は「鬼畜米英」のスローガンのもと、西欧の文明文化を真っ向から否定し、 外来語を禁止し、国粋主義に猛進した、という記憶は正しくない。(中略)ドイツ・イタリアと枢軸同盟を 組んでいたことからも、日本が西欧文化自体を排除したわけではないことは明らかである。 》 67頁 「第1章 アメリカより身近な隣国」

《 満鉄調査部は、東亜新秩序建設を実現させつために必要な要因を明らかにすべく、一九三九年に 調査部あげての一大プロジェクトを開始し、その成果を『支那抗戦力調査報告』にまとめた。(中略)こうして 満鉄調査部は、中国に新秩序を作り出そうとする日本の試みは、この戦争では実現しないと、太平洋戦争が 始まる前にすでに結論したのだ。 》 84頁「第2章 毛沢東の魅力?」

《 逆に言えば、ソ連が対日参戦する可能性が濃厚になった頃こそ、アメリカに条件降伏をもちかける絶好の機会、 ということになる。これこそが日本の終戦戦略だったのではないか。実際、この時点から八月半ばまでの 戦局の展開は、まさにこの通りに展開していくのだ。 》 181頁「第4章 終戦への方途」

 なんと興奮させる叙述だろう。日中〜太平洋戦争史をろくに読んでこなくてよかった、という思い。

 ネットの見聞。

《 看護師さんの一人が僕のことを知ってくれていて、他のスタッフさんたちが、どんな作品を書いているのか 興味を持ってくれるのだけど、「木村拓哉さんの『月の恋人』」とか「阿部寛さんの『カラスの親指』」 と言ったときしか分かってもらえなくて寂しい。映像の世界はすごいな。 》 道尾秀介
 https://twitter.com/michioshusuke

 ネットの拾いもの。

《 インスタントコーヒーを瓶から顆粒のままあおっている人がいるなど、今年の国会図書館も平常運転。 》