埴谷雄高『散歩者の夢想』ランティエ叢書1997年初版を読み進める。半世紀近く前に読み、 大いに影響された「存在と非在とのっぺらぼう」が再録されている。
《 それは、こんなふうに起った。高いコンクリートの階段の上で下方へ向ってのばした片足の 先端がまだ上方の宙へ滑ってゆきそのはしの極点でまさに降下に移ろうとして一瞬の数分の一の 微小な時間、不安定のまま停ったとき、たとえていえば、白い衣装をつけた神とか黒い覆いを まとった悪魔とか、いずれにせよ目に見えない運命的な何者かがとんと心臓の弁の中央を叩いた とお思うまもなく、さながら高い梢の上に置き忘れられていた一枚の大きな葉が最初の過酷な霜に あって葉脈の浮いた鋸状の縁の周辺からくるくると自身の内部へ向って巻きこんでゆくように、 私の心臓の弁全体が、見る見る裡に、自身のなかへ巻きこまれていったあげく、私が不安とも 喜悦ともつかず驚愕したことには、その瞬時の巻きこみ作業の果てで私の心臓自体が不意と消失 してしまったごとくなのであった。 》 67-68頁
《 走っている地球はその場に停止している。こう述べるものは、そこに述べられる以上の多くの 陰翳をその背後に知っていなければならぬと同時に、一面的な視界しかもち得ぬ論理を、謂わば 多視的な回転軸をもった論理に仕立て上げるという極度にねじまげられた語法を敢えて積極的に 駆使する大胆な飛躍的な機智をももたなければならないのである。 》 91-92頁
《 そこには、まったく新しい飛躍的な語法が必要であること。そしてまた、或る種の憤懣を 含んだ絶望と自身の背後に沈むようにもんどりうって闇のなかへ逆さまに倒れこむ勇気が必要 であることも。 》 93頁
朝、友だちからメール。
《 朝、コーヒーと緑茶、どちらにしようか迷った私は、両方用意した。 さめないうちにと、かえっていそがしくなってしまった! 》
それは試したことがないわ。続報。
《 これはダメです。 》
午後、銅版画家林由紀子さんのアトリエを訪問。坂東壮一氏が銅版画の挿絵を手がけた江戸川乱歩 『幻想と怪奇』藍峯舎2015年12月刊、特装本を拝見。上質なウィスキィ(サントリー『山崎』) のような印象。それから《 去年買ったいちばん高いもの。「危険な関係」上下巻、挿画バルビエ、 ポショワール印刷。 》を拝見。典雅、という外はない。
https://twitter.com/PsycheYukiko
ポショワール印刷とは。ネットから。
《 印刷法はポショワール(ステンシルの一種)というこの時期の豪華ファッションプレートに 使われていたものです。 ポショワールは、日本の浮世絵の流行から同じようなタッチが得られるので 好んで使われましたが、手間が掛かるので近代的な出版事業と馴染まず、20年代の終わりには 衰退してしまいました。 》
歌川広重の構図を踏襲していると思われる作品があったが、そういうことか。美術雑誌『国華』の 明治時代の木版画を思い浮かべた。ビアズリーの衣鉢を継ぐハリー・クラークの挿絵本も拝見。やはり 白黒のほうが断然いい。漆黒を我が物にしている。ふと机上の新作に目が届く。春に出版される本に 使われる手彩色銅版画。花魁風の装いの猫目のゆらめく髪の女性を囲む獣、爬虫類ら。素晴らしい。 坂東壮一氏とはまた違った、濃厚だが清澄な気品。
《 そこには疑いもなく、芸術作品のみがもつあのひそやかな感動、胸の奥深く遠くでかすかに足踏み するような愉悦の繰返し、これが芸術なんだなと自身に囁いてはまた囁き返す静謐な韻律がある。 》 174頁
ネットの見聞。
《 かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣袂かわきて今日こそは着め 『竹取物語』
僕の身を焦がすアツアツの恋心にも
この火鼠の皮衣は焼けたりなんかしないのさ
君と結ばれる今日は袂を涙で濡らすこともないしね (森見登美彦訳) 》
《 いづこにか送りはせしと人問はば心はゆかぬ涙川まで 『堤中納言物語』
どちらまで送り届けたか問われたら涙川だと答えてほしい (中島京子訳) 》
《 逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ 『伊勢物語』
逢うのは
一瞬
恨みは
永遠 (川上弘美訳) 》
《 鬼太郎と出雲神話の関連性について、そしてきわめつけは水木しげるは妖怪などこれっぽっちも 信じていなかった、という暴露(爆笑)。 》 daily-sumus2
http://sumus2013.exblog.jp/24870519/
林静一は駆け出しの頃、東急東横線日吉駅の近くに住んでいた。駅近くで貸本屋を手伝っていた知人が、 通るのをよく見ていた。私は見ずじまい。
《 一九七〇年頃が絶頂だった。 》
まさしくその時期だった。
《 TPPで「農林水産物1兆円、加工品で1.5兆円の被害」 》 週刊女性PRIME
http://www.jprime.jp/tv_net/nippon/22831
《 なんの根拠もなく安全と思うよりは
なんの根拠もなく危険と思って行動するほうがいいわ 》
ネットの拾いもの。
《 ドイツ語の試験で「何を持ち込んでもいい」と言われ、ドイツ人を持ち込んだ人の話を思い出しました。 》