『一九○○年前夜後朝譚』

 午前一時半、五時半に地震で起きる。揺れから近いと判断。震源は熱海沖相模湾
 雨の予想なので昼食後に食料買い出し。睡魔が襲い、少し寝て起きると小雨。雪にはならんな。
 大岡信『一九○○年前夜後朝譚』岩波書店1994年初版、前半を再読。

《 われわれ東洋人は、しばしば、あなた方の社会はほんとうに芸術を大切にしているのだろうかと 考えさせられることがあります。あなた方が望んでいるのは、芸術ではなくて装飾──見せかけのために 美を犠牲にすると言う意味での装飾──であるようです。富を求めて狂奔するあまり、絵画の、前に長く たたずむ時間の余裕を持たなくなっています。贅沢さの競争においては、評価の基準は、どれだけ興味深いか ということではなく、どれだけ出費したかということです。壁にかけられる絵は、あなた方自身で選んだもの ではなく、流行によって決められたものです。芸術に何ら共感を示さないなら、芸術からどのような共感を 期待できるでしょうか。このような状況の下では、芸術は表面的な阿諛か手酷しい皮肉かいずれかの応答しか 与えてくれません。その間、真の芸術は泣いているのです。私の言い方に立腹しないようにして頂きたい。 日本はあなた方の後を追って、芸術を大切にしないことを一所懸命に学んでいるところなのです。 》 77頁 「 III 知られざる近代──岡倉天心

 1904年アメリカでの講演から。初読時にも感じたけど、現在にもまんま通用する発言だ。

《 のちに天心は、美術学校長としては井沢修ニのラディカルな西洋音楽一辺倒の思想と対立し、また 美術界でも洋画対日本画の対立関係の中で、本当は彼ほどには西洋美術に関する洞察力を持たなかった 西洋一辺倒派によって、頑迷なる国粋主義者のレッテルを貼られるという皮肉な人生をたどることになります。 しかし彼は、生涯を通じて、実のところきわめてバランスよくとれた東と西の交通への不断の鼓吹者でした。 排他的な日本帝国万歳の高唱者では全くなかったのです。 》 108-109頁「 III 知られざる近代── 岡倉天心

 真っ当な評価だろう。

《 「うた」は単に内部から湧きあがる素朴純真な感動や感傷の表現ではなく、その人物の知的・情操的背景を 示す「記号」なのでした。/ 正岡子規与謝野鉄幹が成しとげた転回は、この観点からすれば、詩歌というものから そのような意味での、現実的効用の側面をできるだけ骨抜きにすることであり、長期的視野においてこれを見るなら、 現代の短歌、俳句、現代詩にまで滔滔として浸透している芸術のための芸術という観念を、伝統詩歌のボディーの中へ 新たに注入することだった、ということができるのです。その点では、ライヴァル同士だったはずの子規も鉄幹も 同じ岸辺の人でした。 》 143-144頁「和歌──その「近代」と「前近代」

 松浦寿輝『明治の表象空間』の一節が浮かぶ。

《 ではなぜここまで長々と「考証」と「写生」について語ってきたのかと言えば、その理由は、露伴露伴となり 子規が子規となるために彼らは「考証」と「写生」を必要とし、それによって彼らは「明治の表象空間」の外に出た のであり、逆に言えばそこからの離脱を彼らに強いたものこそこの表象空間の諸制度にほかならなかったという 点を明らかにしたかったがゆえにほかならない。 》 『明治の表象空間』599頁

《 しかし今われわれはむしろ、現実的な影響力を持ちえなかった露伴エクリチュールのマイナー性にこそ、 言説における「近代性」の真の可能性が胚胎されていたと考えたい。 》 『明治の表象空間』599頁

《 「写生」の一語の導入によって、俳句や短歌のみならず「リアリズム小説」の方法の「革新」までをも 遠く準備した予言者子規の天才的な慧眼が、驚くべきものであったことは言を俟たない。だが他方、その「革新」 とともに、明治の表象空間に沸き立っていたマグマ状の混沌やカオス的な混雑の複数性が、「リアリズム」という 単一の貧しいトポスの下に整序されていってしまったこともまた事実である。以後、犇めき合っていた可能性の 芽はことごとく潰され、言語はいよいよ均質化し、選択の余地は狭められてゆく。そしていったん成立するや、 制度は強烈な呪縛力を発揮する。潰された可能性を惜しむ者はもはやなく、その不在自体がただちに忘却され、 固定した制度によって可能となった文学の財産の豊かさばかりが楽天的に謳歌される。何しろ今や、眼を外に 向けるなら世界の諸事物は「写生」によっていくらでも把捉できるし、眼を内に向けるなら「漢文体」によっては 表象しえなかった「内面」も「言文一致体」によっていくらでも精緻に観察しうるようになったのだ。 》  『明治の表象空間』601頁

 ネットの拾いもの。

《 今、IT業界は革命の時代に突入しています。
  2000年初頭に起こったパラダイムシフトにより様々なキャズムが取り払われ、各社のコアコンピタンスコモディティ化された結果、先の見えない不況が我々の眼前に覆いかぶさってきています。 ○○○は自社の強みでもあるファクトベースにおけるブルーオーシャン戦略、いわゆるボトルネックを排除した ベネフィット創出事業にフルコミットする事で、安定的な成長を続けています。 》

《 埼玉県にある小前田駅の電光掲示板「次はオマエダ」》