『現代芸術の言葉』

 雨の一日。こんな日はブックオフへも行けない。昔は昨日行った三島徳倉店へ雨の中徒歩で行ったこともあった。 そんな覇気は破棄してしまったわ。雨の日は音楽と読書。

 大岡信『現代芸術の言葉』晶文社1967年初版、前半を読んだ。当時読んはずだが、何を読み取ったのか。戦慄が走る。 なんとスリリング。半世紀を経ても鋭い切っ先は鈍っていない。さらに深く突き刺さってくる。「現代芸術批判」から。

《 模倣は必要だが、模倣によって、そこに、模倣された対象にはない、新たな価値の産出ということがなければ、 それは芸術ではあるまい。単なる呪術的行為にすぎないだろう。 》 36頁

《 言葉とその意味との照応関係が、決して自明ではなくなってきたというのが、言葉の無力化という事態の実相であろう。  》 40頁

《 現実社会がその最も敏感かつ流動的な部分において、最も欺瞞的な常套語を横行させているのを見るとき、芸術家が、 みずからの五官によって触知し、確実だと信じうるものの世界に、ほとんど本能的に歩み寄ろうとするのは当然である。 》  40頁

 深くうなずく。五官による触知、なんだよなあ。五感ではなくて五官というところ、さすが。

《 だが、まさにこの理由そのものによって、今日の芸術にあらわれる事物(自然)の姿は、われわれが日常見知っていると 信じているその姿では決してあり得ないのだ。 》 40頁

《 それは、はじめて遭遇する、名付けようのないものの相貌を示して、人の前にあらわれるだろう。 》 41頁

 北一明の焼きもののデスマスク……。

《 今のべたような、事物と人間との、刻々に変化する関係における交渉過程の表現(というよりは、むしろ記述というべき であろう)こそ、多様な相貌をみせつつ揺れ動いている現代芸術の、最も基本的な目標であるように、僕には思える。 》  41頁

《 だが、このように、事物を過程的存在として見ようとすることは、いうまでもなく、反日常的な、意識の強い緊張状態の 持続を意味している。その持続が失われたとき、人は一層悪い混沌の中に陥ちこむことは必至である。 》 41頁

《 美は客体的に存在するものではなくて、ある人間にとっての美が別の人間にとっては何ものでもないという場合を とってみれば明らかなように、美は、実は、美として感じとられる何ものかにほかならず、つまりは各人の全感官的な 享受能力の函数としてしか出現しない何ものかにほかならないのだ。 》 51頁

 享受能力、これがなあ。

《 現代芸術ももちろん美に関心は抱くだろう。だが、美はすでに芸術の目的ではなくなってしまった、というのが、 すべての現代芸術に共通した、そもそもの出発点ではなかったか。 》 52頁

 そうなんだよなあ。

《 現代芸術は、美ではなく、別のところにその眼を向けている。それは、美はおろか、芸術という概念そのものにさえ、 ほとんど関心を抱かない。 》 52頁

 だよなあ。

《 言いかえれば、美は、かりに醜と呼ばれているものから分離され、相対的に限定された瞬間、すでに美ではなくなって いるだろう。美は醜と共にあり、醜と分かつことのできない、無限定の状態においてこそ、真に産出力をもった一状態として、 生きた影響力を及ぼしつづけることができるだろう。というのも、一体だれが、美と醜の明確な境界を知ることができるだろう。  》 54頁

 たしかに。

《 ここにいたると、すべて限定することを本質とする概念というものの自体の限界が明らかになる。限定するものは、 限定されるのだ。すでに明らかであるように、創造的な性質を帯びたもの、産出力を帯びたものは、すべて、このような 限定から逃れ出るという性質によって真に創造的でありつづけているのである。 》 55頁

 私の評価する作品は、既成の概念に収まらないものが多い。味戸ケイコさんの「イラスト」、白砂勝敏さんの木彫椅子…。
 http://shirasuna-k.com/

《 それは、個性の自己表現としての芸術はすでに破産したとする見解である。この見解は現代芸術の歴史の総体的検討の結果 ひき出されてきたひとつの結論だが、それのもっているパセティックな絶望的認識はいつのまにか忘れられ、多くの画家が、 単に非個性的で無表情であるにすぎない制作物を、新しい時代の新しい芸術と信じて営々と生みだすような珍妙な事態が 出現したのである。 》 48頁

 「現代芸術批判」から半世紀……。

 ネットの見聞。

《 放射能と芸術――帰還困難区域内での国際美術展「Don’t Follow the Wind」をめぐって 》 椹木野衣
 http://politas.jp/features/9/article/481

《 何度考えても、被災地をなおざりにしてオリンピック景気を煽ろうとするやり方には納得がいかない。 あっと言う間の競技会期のために巨費を投じて、それで被災者が励まされるどころの話でもない。 》 高橋正明
 https://twitter.com/buzzmeak/status/708069995448651776