『抽象絵画への招待』

 大岡信抽象絵画への招待』岩波新書1985年初版を再読。

《 このように見てくると、二十世紀美術が有する独特な性格のひとつを、「空間」概念と「時間」概念の 相互浸透の多様なあらわれとして理解することができるのである。 》 20頁

《 それらは一般的特徴として、生命力の表現としての流動性の強調といった性格をもっていたといっていい。 そこには、絵画の画面をそのまま魂の問題を語る場にしようとした十九世紀末、二十世紀初頭の画家たちの、 考えてみれば不思議な情熱が、世代を超えて引きつがれていたのであった。 》 21頁

《 現代芸術が直面しなければならないのは、皮肉にもまず「観衆とは何か」という問いそのものであるだろう。 それは同時に、「現代社会における現代芸術とは何か」という恐ろしく難解な問いを含んでいるのである。 》  25-26頁

《 すなわち二十世紀の人間観は、ギリシア以来、ルネッサンス以来の輝かしい理想と秩序のもとにではなく、 それらが崩壊したのちの、人間と彼をとりまく自然の混沌たる相剋の相のもとに再建されねばならない時代を 迎えた。 》 36頁

《 「描く」という行為そのものの中に画家の存在全体がたえず賭けられており、画家の動く指の尖端は、 各瞬間における彼と世界全体との接点であり、最高度の溶解点であるという認識──これは現代の抽象絵画を支える 重要な信念の一つであるといってよいだろう。 》 64-65頁

《 しかし、事情がそのようなものである以上、この単純さは、複雑な内部構造を含む単純さなのであり、それが 排除した造形的な細部は、かえって見えない圧力となって画面を緊迫させるはずである。したがって、ある抽象画家が 発表する一点の絵の背後には、それに達するまでに見捨てられた何点もの、ほとんど同じ作品があるということは、 つねに起こり得る事態である。 》 72頁

 沼津市のデザイナー内野まゆみさんの線描のテディ・ベアは、まさしくそれ。何点もの絵が見捨てられた。しかし、 その一点は素晴らしい。

《 能産的自然 natura naturans は、自然界の根源的な「生成力」「形成力」であり、その力は、まさに「人間」の うちにも流れているのである。それゆえ、現代の絵画は、人間自身の生成力、形成力の自己証明であるような絵画を めざす画家たち、形の彼方のフォルムを追求する画家たちを、必然的に生むようになった。 》 101頁

 昨日私の描いた「生成」とここでの「生成力」は違うもの。念のため記しておく。

《 三○年代のアメリカ絵画は、いわば一九一三年の「兵器庫展覧会(アーモリ・ショウ)」がこの新大陸にもたらした 激しいショックから、まだ立直っていなかったといえる。「アーモリ・ショウ」とはニューヨーク六九連隊の兵器庫を 使って開かれたためこの名のある大規模な国際近代美術展で、セザンヌゴッホ、立体派、フォーヴィズムカンディンスキーブランクーシらの作品がアメリカ現代作家の作品とともに展示され、大きな衝撃と影響を与えた。 デュシャンの有名な「階段を降りる裸体」も出品されたが、理解されず、嘲笑のまとになった。「現代美術」の「公衆」は どこにもいなかった。いや、公衆はいることはいたが、彼らはみな十九世紀ヨーロッパの方を向いていた。画家自身、 ヨーロッパを、しかしこちらは二十世紀ヨーロッパの方を向いていたのである。 》 139-140頁

 それから百年。日本は? 椹木野衣・編『日本美術全集 第19巻 戦後〜1995 拡張する戦後美術』小学館2015年初版を また、思う。そしてその第20巻を。

《 ただしそのようなことが可能であるのは、いうまでもなくその作者が社交界においてもとびきり有名なスーパースター であるような場合である。ここでもまた、人々は作品一点のかけがえのない優秀性によってよりは、その作者の虚名に よって、途方もない値段のついた絵を買うのである。 》 161-162頁

 アンディ・ウォーホルのこと。それにしても、と思う。この著作が出版されて三十年。図版の絵を見て歳月を感じる。 実物を前にして、その歳月を超えた不朽の魅力、訴求力があるのか、気になる。こちらの眼力も試されるが。

 ネットの見聞。

《 単行本はカバーを外して読むのが癖なので、本体の表紙が美しいととても嬉しい。『教皇ヒュアキントス』は ダントツで美しかった。 》 かわしー
 https://twitter.com/AKwashy/status/711524850238509058

 ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス』国書刊行会2015年初版、林由紀子さんの銅版画に惹かれ人るがここにも。

《 世の中の全てを見て記録する人と言えば、ベルリンの天使か。死んだ後で「あの人は記録係の天使だったのか」と わかる人生もある。だから作品は残さなきゃいけない。人に見せるために。作者が死んだ後で誰かが見るかもしれない のだから。作品があれば作者は既にいなくてもいいのだから。 》 林由紀子
 https://twitter.com/PsycheYukiko/status/711713488138207233

《 「大家が『琉球新報には貸さない』と言っている 」…まことに正直な大家。首都でこういうことが起きるとは 嫌な国になってきたものだ。 》 Osamu Tomori
 https://twitter.com/orpheonesque/status/711436957167915008

 ネットの拾いもの。

《 食べて応援。食べて全滅 》

《 嘘つきは政治家の始まり 》

《 カナダのモントリオールの寿司屋にカニカマ握りが有った。 》

《 いつまでもあると思うな親と金……と美術館 》