10日の毎日新聞、「今週の本棚」に目を通す。「この三冊」は水村美苗・選「夏目漱石」。『坊っちゃん』 『三四郎』『明暗』。
《 実は漱石から三冊選ぶにあたってわざと避けた作品がある。『こころ』である。 》
以下その理由を述べて言う。
《 あんな部分を高校時代に読まされたら、のちに漱石を読む気がしなくなるだろう。 》
そのとおりでした。漱石は大人(いくつだ?)になってから読むべし。『明暗』について。
《 面白いが、愉快ではない。 》
うまいことを言う。デーブリーン『ベルリン・アレクサンダー広場』も、セリーヌ『夜の果ての旅』も同様。 だから人に勧めるのはためらう。が、不愉快ではなかった。
水村美苗『続明暗』を以前読んだ。面白かったが、愉快ではなかった。批判的な評を読んだ記憶。些末な ことで揚げ足をとるなあ、と思った。
《 この未完の作品の続編『続明暗』を女の私が書こうと思ったのも、女に対して卑怯な男を少し痛い目に あわせたかったからかもしれない。 》
森山高至『非常識な建築業界─「どや建築」という病』光文社新書への松原隆一郎の評。
《 ハディド氏は建築業界ではスター的な存在だが、彼女の建築デザインを劣化させたような奇妙な建築物が、 バブル経済の頃から地方都市の公共施設に増殖している。それらを著者は「どや建築」と呼ぶ。「見ているほうが 気恥ずかしくなるほど得意気な自慢顔」に見える建築物のことである。 》
あるある、だ。
《 場違いであること、奇天烈であることを一知半解の現代哲学で「オリジナル」と称し称(たた)え合うことも 仲間内で止まれば無害である。 》
現代アートと呼ばれるモノにもあるある、だ。今気づいたのだけれど、現代美術、コンテンポラリー・アートは 日本語、英語で統一されているが、現代アートは日英ごっちゃ。いつ頃から現代アートなる用語が跋扈し始めたか。 月刊『太陽』1991年8月号は「特集 現代美術のアトラス」。同1993年11月号は「特集 現代美術入門講座」。 旬刊『BRUTUS』1995年5月15日号は「究極のアート特集 ゴミ芸術論」。同2002年9月1日号は「日本美術? 現代アート?」。2003年7月1日号は「自分のためにアートを買いたい!」。その謳い文句。
《 で、実は次なる時代のキーワードが「アート」なのです。 》
煽るねえ。追うように旬刊『PEN』2006年11月15日号は「いま世界には、アートが必要だ。」。「現代アート」は 今世紀になってから一般化したのだろう。椹木野衣・編『日本美術全集 第19巻 戦後〜1995』小学館2015年の副題は 「拡張する戦後美術」。戦後アートとは言わない。世紀末頃を境に「アート」がじわじわと広がっていった気がする。
美術からアートへの変遷。並行して実態も1995年までの「拡張」から「拡散」へ変質していった気がする。 裏付けがないので、気がする、としか書けないが。戦後美術、現代美術から現代アートへ。それは外野席から眺望すると、 実体がだんだん薄っぺらになっていく過程のような印象。いや、薄っぺらなモノが現代アートと自称しているのか。 漢字から「感字」そして「かんじ」「カンジ」。表意文字から表音文字へ。その先には果てしなく浮遊する空虚のような。 そういえば、富裕層は現代アートがお好きのようだ。富裕層はアートの空虚を浮遊する、か。が、それは浮揚になならず、 不要になりそ。
おっといけねえ、忘れていた。『美術手帖』だ。1995年5月号「特集 戦後50年 写真で見る 日本の現代美術」、 2001年6月号「特集 20世紀美術の思想47人」、2003年12月号「特集 現代美術の教科書」、2005年7月号「特集 日本近現代美術史」。アートという用語は、手元のものでは見当たらない。で、また驚いた。「特集 日本近現代美術史」 に短文を寄せている椹木野衣の題は「空(そら)から空虚へ」。いやあ遭遇。ホント。明日へつづく。
書評に戻る。
《 どうすべきか。対案も用意されている。地方には「どや顔」をしないが財産であるような謙虚な建築が、多数 眠っている。それを壊さず評価し再生させる「リファイニング建築」こそ向かうべき道だという。まったく同感だ。 》
《 オリジナリティは的確な基礎技術に予想外の解釈を施して生まれる。 》
美術にも文学にも音楽にも通じる。
ネットの見聞。
《 国書刊行会《新編 日本幻想文学集成》全9巻(6月発刊)内容見本出来 》
https://www.kokusho.co.jp/catalog/9784336060266.pdf
《 『久生十蘭全集』に比べれば余裕な金額だ。問題は置き場所である。 》
《 国連人権理事会が任命した特別報告者(表現の自由担当)が訪日調査を終え、「日本の報道機関の独立性が 深刻な脅威にさらされていることを憂慮する」として、放送法等の改正を求める声明を発表。電波停止を明言した 総務大臣は面会を拒絶したようだが、安倍総理はこのような評価に対してどう答えるのか。 》 小沢一郎(事務所)
https://twitter.com/ozawa_jimusho/status/722579764951646208