「過去をもつ人」

 昨日の加藤郁乎の一文に見られる「椿岳と寒月」は、淡島椿岳(あはしま・ちんがく)と淡島寒月(かんげつ)親子。

《 椿岳の女性との関係は、今日の常識からみて、ほとんど想像を絶するほどのものである。ふつう、椿岳が取り替えた お妾の数は一六○人と言われている。 》 山口昌男『「敗者」の精神史』岩波書店1995年初版、117頁

 淡島椿岳の名は、昭和の時代何かの本で辞世の句を知って印象に残った。山口昌男も紹介している。

   今まではさまざまの事してみたが
     死んでみるのは之(これ)が初めて

 私の記憶ではこうなっていた。

   この世ではさまざまな事をしてみたが死んでみるのはこれが初めて

 記憶は歪む(私だけではないみたい)。

 毎日新聞昨夕刊、田中和生文芸時評 8月」の題は「戦争文学 過去と現在を結びつける」。荒川洋治の エッセー集『過去をもつ人』みすず書房への評。

《 その背後に見えてくるのは、過去とよく結びつけられた言葉が時代を超える力をもち、現在に閉じ込められた言葉は 超えられないという事実だ。人気作家が文学史的な見通しのないまま、自分の読者だけに向けて次々と作品を書くような 現在のあり方は、どこかで戦争が起きた過去と断絶した現在の日本のあり方と重なる。そんな時流に抗し、 過去の言葉と結びつけられ「過去をもつ人」となることが、どれほど豊かなことであるかを示す、批評的な作品だ。 》

 言葉を絵画に読み替えれば、美術にそのまま通じると思う。

 その背後に見えてくるのは、過去とよく結びつけられた絵画が時代を超える力をもち、 現在に閉じ込められた絵画は超えられないという事実だ。

 27日に引用した知人女性の一文。

《 現代美術における「素材」は「そこに記憶や意味合いを求める作家」と「あらゆるコンテクストからの断絶を求める作家」 に両極化してきているように感じます。 》

 「あらゆるコンテクストからの断絶を求める作家」に私は違和感を感じている。上記文芸時評でほっ。

 昼前、注文した大岡信『自選 大岡信詩集』岩波文庫2016年初版帯付を近くの本屋で受けとる。読みやすい大きめの活字。 岩波文庫の詩歌集は活字が小さい。これくらいでないと。元本で読むのとは異なった印象。ふっと開いた272頁。

   「外は雪」

   槌と鏨でつくるのは
   かたちなきもののきはみのかたち


   言葉と息でつくるのは
   かたちなきもののはじまりのかたち

 『草府にて』収録の詩。読んだ記憶はある。前連の二行、白砂勝敏さんの木彫を連想させる。

 「過去をもつ人」、なんか引っかかった。フランス映画『過去をもつ愛情』だ。フランソワーズ・アルヌールの容姿、 ファドの女王アマリア・ロドリゲスの歌唱、それだけで満足な映画。

 ネットの見聞。

《 【ラストバルトの法則】投資額+満足度の値が大きいほど、交際が長続きする法則。多くの労力とプレゼントを捧げ、 彼女に不満がない男は当然別れない。妻に愛はないが、ずっと家のローンを払っている男性も、満足度はゼロだが 投資額が膨大なため、離婚しない 》 フランス書院文庫編集部
 https://twitter.com/franceshoin1985/status/770963853551214592

《 太洋社のその後の消息ではないけれど、ツタヤ図書館問題などもマスコミや業界紙などでもまったく言及されていないが、 これを読むと、まだ問題は何も解決されておらず、続いていることを教示してくれる。
  とりわけその始まりであった武雄図書館は来館者数も減少し、書店やスタバの収支を含めても赤字で、 5年契約が切れる2年後の検証には様々な視点が必要だとの『佐賀新聞』の言も引かれている。 》 出版状況クロニクル100
   http://d.hatena.ne.jp/OdaMitsuo/20160901/1472655679

《 汚水1万9千リットル海へ/薬品を排水管に投棄 米軍基地内のずさんな実態 》 沖縄タイムス
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/59886

 ネットの拾いもの。

《 都立家政で「ひどい似顔絵描き」 「むかつくけど似てる」「自信をなくす」の声も 》 中野経済新聞
 http://nakano.keizai.biz/headline/1013/