「西国の人気者 久保田米僊の明治」

 山口昌男『「敗者」の精神史』岩波書店、第13章「西国の人気者 久保田米僊の明治」を読んだ。絵は当時の本で知っているが、 経歴などは全く知らなかった。まさしく「西国の人気者」だわ。

《 ついでながら、当時刊行されていた『美術世界』という雑誌の一号から六号までの広告が、「大通世界」に載っている。 天心、篁村、学海、美妙、鴎外、南翠、思軒、三昧、石橋忍月、今泉雄作らが序を書いている画集らしいが、米僊作の画は すべての号に載っている。(中略)かかわり合い方からいって、或いは米僊が編集に参加していたのかとも思われるが、 実物を見ていないの確かなことは言えない。しかし、当時、東京における米僊の位置を示すものとも言える。 》 496頁下段

 手元には『美術世界』の明治二十三年の創刊号から二十四号までのうち、十九冊がある。ほとんどの号に米僊の絵。高橋克彦 『浮世絵博覧会』角川文庫2001年初版から。

《 『美術世界』は、明治二二年刊の『国華』と並び、当時一流の超豪華版美術雑誌として、その名が遺されている。 》  263頁

 しかし、今見ると総木版刷りの『美術世界』よりも木版画は二枚だけだが、倍以上の大判の『国華』ほうが見応えがある。 大きさよりも内容の質だろう。『美術世界』で目を惹くのは緒(尾)形光琳の写しの木版画くらいだ。光琳のセンスには脱帽。 対して『国華』には今見ても優れていると言うしかない絵画の写しの木版画。同じ写しの木版画でも絵の質が違う。しかし、 見方を変えると評価も変わる。『国華』は学術研究の正装、『美術世界』は絵を楽しむ平服。編集の渡辺省亭とともに『美術世界』 に頻出する久保田米僊の軽妙洒脱な風景画、人物画。あるときは長谷川等伯ばりの荒々しい筆遣い。こういう愉快は『国華』には 見えない。日本画木版画が劣勢だった時代、両輪の輪だったのだろう。

《 もう一人、意外な人物がオマージュを捧げている。それは宮武外骨である。『明治資料(一)』に収録された「明治名数集」 は、一から十八までの数に収められた名流の一覧である。明治十二傑の十二伯の項では、橋本雅邦、川端玉章、武内桂舟、浅井忠、 黒田清輝と並んで、久保田米僊の名が挙げられている(中略)これは大正から昭和初年にかけての特異な現象だと異を唱える向きも あるかもしれない。しかし、その後の昭和、平成の出版が正しいのか、大正、昭和初期の判断が正しかったのか、俄かに判断し難い ところである。 》 502頁上段

 東京国立近代美術館横山大観水墨画の長尺絵巻を観たが、どこが魅力的なのかわからずじまいだった。私には縁のない人だ。

《 『新潮』一九九三年十月臨時増刊の「短歌俳句川柳一○一年」に、金升のアンソロジー「狂句の栞」が収録され、金升について 次のように紹介されている。 》 487頁上段

 本棚から『短歌俳句川柳一○一年』を取りだす。鶯亭金升(おうてい・きんしょう)の号の意は「遭うて来んしよう」。 いかにも、だ。「狂句の栞」から。

   葬具屋は泣いた門(かど)から福が来る   大坂めさ磨

   日曜の朝だけ天気予報を見   寶山人

   出来たての指環は指に落(おち)つかず

   笑ふ子の瞳にうつる顔ふたつ

 ネット注文した古本、塚本邦雄『王朝百首』文化出版局1974年初版函付、1100円が届く。「をはりに」の結び。

《 私がこの後選ぶとならば、記紀から現代に到るあらゆる詩歌の中からのみづから發光することによつて享受者を誘ふ無名の、 あるひは名を消し去つた、日本人の魂の糧ともなるべき詞華一千であらう。 》

 これが九年後の1983年に冨山房から出版された『清唱千首』。二冊を並べてはたと気づいた。『王朝百首』、ある気がする。 あったわ。地味な背文字が焼けて見逃していた。今度買った本は焼けてなく状態が良い。と、慰める。
 ブックオフ長泉店で二冊。安萬純一『ポケットに地球儀』創元推理文庫2012年初版、エドワード・D・ホック『サイモン・ アークの事件簿 1』創元推理文庫2008年初版、計216円。

 ネットの見聞。

《 ジャニスがビッグブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーのボーカルとして、モントレー・ポップ・フェスティバルに 出演した1967年、小野寺さんは木曽の手塚万右衛門の工房にいました。ピンチョンは『競売ナンバー49の叫び』を書き上げ、 つげ義春にとっては『ねじ式』前夜、『李さん一家』や『紅い花』を発表した年です。この4人が実は見えない線でつながっていた ・・ということはなく、ただ世界にはいろんな才能や因果を抱えた人が、いろんなことをしているなーという話です。 》  書肆 逆光
 http://gyakko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_12.html

 椹木野衣『後美術論』美術出版社を連想させるわ。

《 シン・ゴジラが会議多すぎとか言われてるが、おいおい、昔見た「12人の怒れる男」なんて映画、 てっきり12人の怒れる男たちによるアクション大作だと思ってみたら、なんかずっと会議しか、本当に会議しか、 してなかったんだぞ!恋愛要素もなしだ!シン・ゴジラどころじゃねぇぞ! 》 小林伸光
 https://twitter.com/nobkoba/status/775316451926257665

 ネットの拾いもの。

《 八時だョ!全員退庁−。 》

《 豊洲も株価も空洞だらけよ。 》